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『PLANETS』宇野常寛

「誤配」の可能性に賭けたい
取材・構成:神保勇揮・松本香織
 撮影:柏木ゆか

編集長:宇野常寛
文筆業。1978年生まれ。
企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。
評論「ゼロ年代の想像力」を月刊<SFマガジン>(早川書房)に連載中。
趣味は大学サークル研究とマッチング。

『PLANETS Vol.04』
定価:1575円
判型:A5
ページ数:246p
発行:年2回

<「PLANETS」最新号のコンテンツ見出し>
<巻頭インタビュー>
東浩紀の功罪
川上未映子 インタビュー「意識 イン 身体、そして――」
前田司郎 インタビュー「働かないイラクに行かない考えすぎない」
<特集 「文学」なんて、知らない>
惑星開発文芸MAP2008
大森望インタビュー 「メッタ切り」後 の文学
文芸評論家ミシュラン 他
WEB SITE

 

「大衆を挑発するお茶の間襲撃マガジン」と銘打つ批評誌『PLANETS』。第4号の表紙には、さまざまな見出しが躍る。東浩紀との対談に川上未映子インタビュー、そして「惑星開発文芸MAP2008」。一言でいえば、何でもあり。編集長の宇野常寛もその直感を裏付ける。「誰が読んでいるか分からない雑誌にしたいんですよね。“ごった煮感”を目指したい」。東浩紀めあての読者と川上未映子めあての読者は違う。宇野は女性を含めた幅広い層に向けて『PLANETS』を作っている。
宇野は学生時代、ネットで表現活動を始めた。ちょうど「侍魂」や「ちゆ12歳」などのテキスト系サイトが流行った2002年前後の話だ。「あれって書いてあることが面白いんじゃなくて、ああいう微温的なコミュニティが魅力的だったわけですよね。それはわかるんだけど人間関係はオフラインでいいやと思っていたので、興味が沸かなかった。じゃあ、何ができるだろうと考えたとき、お互い暗黙に参照しあっているのにつなぐメディアがない『論壇』と『サブカル』をつなぐ回路をつくるという結論に行き着きました」。それが『PLANETS』刊行母体の前身、「惑星開発委員会」である。しばらくは活発にサイトを更新していたが、メンバーたちが就職の時期を迎えるとともに活動を停止した。
しかしその後、サラリーマンをしながら執筆活動を行っていた知人に触発され、「第二次惑星開発委員会」を発足させて、ネットでの活動も再開する。おりしも “ネット論壇”が形成され始めたころだ。「2004年ごろ、鈴木謙介さんとか北田暁大さんとかの若手知識人がみんなブログをやっていた時期があったんです。最初は面白い議論がされていたんですけど、時間が経つとともに、議論ではなく、馴れ合いを求める人が増えてきて、一流の書き手がどんどん減った。それはすごく嫌でしたね」。その疑問は東浩紀が発行するメルマガ「波状言論」に向いた。「論壇的にはすごかったけれど、文化的には申し訳ないけれど視野狭窄で時代遅れのメディアだと思いました。だって90年代後半オタク系文化の残滓ばかり追いかけていて、ゼロ年代のオタクトレンドも、映画やドラマや演劇も全部無視。それで『新しい文芸』とか言っているのはかなりまずい。でも当時は東さんしか人材がいなかったから、文壇にはそんな事情に気づかずにストレートに受け止める人が結構いたんですよ。それが、すごくもどかしかったんです」。
また、「第二次惑星開発委員会」の記事を更新していて、個別の記事を目当てにやってきた者が別の記事を読まずに帰ってしまうことに気づいた。ネットでは、自分の求める情報をキーワードひとつで探し当てることができる。しかし、それは意外な発見に出会いづらいということでもある。自分に衝撃を与えてくれるようなコンテンツが転がっていたとしても、視野に入ってこない。これは機会の損失だ。だからこそ、興味のない記事でも、“間違って”目に入ってしまう可能性のある(宇野はこれを「誤配」と呼ぶ)「雑誌」というパッケージに賭け、2005年、『PLANETS』を創刊した。
宇野は当時をこう振り返る。「表紙を決めるとき、メンバーの間で意見が割れたんですよね。僕は『女の子の写真を使いたい』と言ったんだけど、『3次元の女なんてダメだ!』っていう奴まで飛び出して(笑)」。しかし、そこはあえて強硬な姿勢を貫いた。「女の子目当てで雑誌を手にとる人もういるだろうから、読者層も広がる」と考えたからだという。刷った200部はすぐに掃けた。そこから宇野は本格的に『PLANETS』の制作に乗り出す。
「2号以降は、カルチャー誌にしたいと思ったんです。扱う内容が評論だけでは、硬すぎてふらっと立ち読みしたとしても買ってもらえない。じゃあ商業媒体でロングインタビューがまず載らないような人に取材しよう、と」。第2号では、社会学者の稲葉振一郎、ドラマ「野ブタ。をプロデュース」の脚本を手がけた木皿泉、小説家の鹿島田真希、平成「仮面ライダー」シリーズのプロデューサーを務めた白倉伸一郎にインタビューした。「この人たちを同時に好きな人って、絶対にいないと思ったので(笑)。こんな時代なので自分の好きなものだけ見たり聴いたりするという“文化の棲み分け”自体を一概に否定するつもりはない。だけど自分は、“異なる文化が混ざり合うような強度”のある場を作りたいんです」。以来、若手の映画監督や小説家を取り上げ続けている。
そんな宇野は、40代が主導する現在のカルチャーシーンをどう見ているのだろうか。「今は年功序列的に90年代前半ノスタルジーに浸りがちな世代がメディアを握っているから、当時のカルチャーに即したものが紹介されることが多いと思うんです。けれど、僕はどちらかというと、いまの感性を代表する人を紹介していきたいんですよ」。だから、宇野は同世代に照準を当てる。「自分の審美的な基準をある程度示しつつも、若手を紹介していける批評家や商業媒体が、現在は少ないと思うんです。そういう現状に憤りを感じてはいますね」。
批評誌としては異例の販売部数を誇る『PLANETS』。しかし、その挑発的な姿勢ゆえに批判の声もあがっている。はたして本人はどのようなスタンスで雑誌を作っているのか。宇野は自分の立ち位置をこう説明する。「僕は普通の人には『もっとアンテナを高くしろ、マイナーなものにも面白いものがあるぞ!』と呼びかけ、マニアックな人には『ひがんでばかりいないでメジャー作品にもいいものがあることを認めよう!』と呼びかけているんです(笑)。どっちの味方でもないし、敵でもない」。
挑戦的な物言いの陰に潜むクールな視線。自身の考えに固執するのではなく、アジテーターとして読者を撹乱する――。あくまでも相対的な視点を保とうとする宇野の姿勢は、『PLANETS』に毎号掲載されている「惑星開発MAP」にもはっきりと表れている。さまざまな作家や媒体を四象限の上にポジショニングするとき、必ず自身の立ち位置も指し示すのだ。それを指摘すると、宇野は言った。「これはあくまで僕が作るマップですから、当然、僕の視点が必ず入ってしまっている。人間、究極的には自分を完全に相対化なんてできません。それに状況は常に動いているから、たえず更新していく必要があるんです」。だから何度もマップを載せるのだという。
『SFマガジン』や『STUDIO VOICE』などで行っている執筆活動について聞くと、「御用ライターが嫌い」という発言が飛び出した。「媒体の性質や、そこで求められるものにもよりますけど、多少なりとも批評だとか、メタレベルの構造みたいなものを扱うところで御用ライター的な仕事をするのはよくないと思うんです」。カルチャー誌といえども、商業資本とかかわりをもたなければならないことには変わりはない。安価に効果的なパブリシティを打ちたい映画会社や芸能プロダクションが一方にあり、他方には手軽に見栄えのいい記事をつくりたいカルチャー誌がある。どのカルチャー誌も同時期に、同じ映画の記事や同じタレントへのインタビューを掲載する……。商業資本に逆らわず、差しさわりのない記事を書く「御用ライター」も、このような風潮を支える者であるといえるだろう。
『PLANETS』はそうした雑誌たちとは異なるベクトルを志向し続ける。「雑誌に意外性や驚きを求める人なんて、そんなにいないかもしれません。でも、そういう一部の読者に届く雑誌でありたいんです」。

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