CINRA.NET CINRA MAGAZINE CINRA RECORDS exPoP!!!!! CINRA MAGAZINE Volume17

『Sweet Dreams』 福田教雄
初期衝動から立ち上がる、「?」と「!」の面白音楽読本
取材・構成:柏井万作
撮影:井手聡太

編集長:福田教雄
音楽・楽器専門出版社リットーミュージックにて音楽専門誌『SiFT』の編集に携わった後、1997年に同誌を作った仲間とともに音楽誌『AFTERHOURS』を創刊。その後、『AFTERHOURS』を離れ、2000年に小田晶房(※1)と音楽誌『map』を創刊する。2007年12月に『Sweet Dreams』を創刊。

※1 1967年京都生まれ大阪育ち。現・なぎ食堂亭主。インディペンデント・レーベルcompass tone/compare notesを主宰し、SAKEROCK、二階堂和美、トクマルシューゴ、teasiなどをリリースしている。HEADZ主宰のレクチャー・スクール「BRAINZ」の第二期講師の一人でもある。

『Sweet Dreams Issue#1』
定価:980円
判型:四六判
ページ数:128ページ
発行:不定期(年3〜4回を予定)
付属物:ポストカード×2枚(アートワーク:ニキ・マックルーア、トム・グリーンウッド)

<コンテンツ見出し>
Synthetic Sound of the Future
BEST MUSIC: Near Motif, Far Feeling
BEST MUSIC、50のインスピレーション
Jandek: Nowhere Man
Jandek on Corwood ドキュメンタリー制作者へのインタビュー
Jandek: 49 Albums Marathon Review
At the Nageki no Kinenkan 嘆きの記念館にて
TEASI: Climbin' Up the Mountain ひとりのようなみんな
Comic TEASI
傍役音楽家名鑑 その1:ヴィンセント・ベル
Kathy zine 特集:スリム・ムーンと近代文学
The Tokyo Photographs of Emil Davits エミール・ダヴィッツの東京写真

画:ジュヌヴィーエイヴ・カストレイ、トム・グリーンウッド(ジャッキー・オー・マザーファッカー)

・WEB SITE
<本文>
『Sweet Dreams』(以下、SD)は、2007年12月に福田教雄が創刊した生まれたての雑誌だ。赤を背景に5人の子供たちが旗を持っている表紙のイラストや、『Sweet Dreams』という誌名の書体からしてどこか愛らしげなこの雑誌、編集を福田がひとりで手がけていることもあって、体温とでもいうべきか、ちょっとした温もりを感じさせる。複数の執筆者がいるという点では確かに「雑誌」ではあるのだが、その読後感は小説を読み終わった後のように、一つの筋が通った物語を楽しんだ気持ちにすらなる。本棚に大切に保管して、たまに取り出しては読み返したくなるような、不思議な魅力をもった雑誌なのだ。

雑誌と言えば多くの方は、巻頭インタビューや特集、新刊や新作CDなどの紹介記事を思い浮かべるかもしれないが、SDはちょっと違う。ある音楽家がベトナムで子供たちにギターを教えた手記から始まり、「スーパーマーケットのための音楽を作る」をコンセプトにアルバムをリリースしたBEST MUSICという異色ユニットのインタビューが続き、今度はジュヌヴィーエイヴ・カストレイという作家の奇妙だがかわいらしいイラストが4ページにわたって掲載される。そしてさらにページをめくれば、そこから40ページもの誌面を割いて、「ジャンデック」という謎ばかりで都市伝説のようなアーティストにまつわる様々な記事が誌面を飾る。
こうして書き並べると脈絡を感じられないそれらの記事が、SDという本の中では違和感なく並び、統一感のあるひとつの読み物として成立している。それがSDの魅力であり、本棚にしまっておきたくなる由縁なのだが、間違ってもそれはこの雑誌がマニアックな情報で埋め尽くされているからではない。何もかもをジャンル分けしたがり、してもらいたがっているこのご時世に、脈絡もない記事が並んでも違和感を感じずに、おまけに一つの物語に見えてしまうなんていうウマい話しがあっていいのだろうか? しかし福田は、そんな「魔法」を長年に渡って磨きあげてきたようだ。

「中学生の頃は自作の4コマ漫画を書いていたり、高校生のときは友だちと壁新聞を作っていたりしたんですよ。好きなミュージシャンの架空インタビューと一緒にクラスからのお知らせが載っているような壁新聞を (笑)。昔からそういうことをするのが好きで、たとえば『アーティストが置かれた今の社会状況を斬る』というリアルなものより、自分の妄想で話を作りあげて面白くなればそれが一番いいのかなって思っているんですよね」。

少年時代から「好きなミュージシャンの架空インタビュー」を作っていたという福田。それがどんな内容だったのかを知る術はないが、「妄想」を糧に受け手を楽しませ、ついでに好きなミュージシャンを紹介するという手法は、やはり今のSDにも受け継がれている。この「妄想」が先の「魔法」の正体で、一見して何の秩序もなく並んでいる記事は、実は全て「福田の頭の中」という、個人的ではあるが彼独自の秩序で構成されている。たとえばSD創刊号の巻頭特集ともいえる「ジャンデック」は、1978年に最初のレコードをリリースしてからこれまで50枚以上のアルバムをリリースし、いくらかの熱心な信者を抱えているにも関わらず、インタビュー記事も存在しなければ最近まで公衆の面前に姿を現したこともない、そのほとんどがヴェールに包まれた謎の多いアーティストだ。福田はそんなジャンデックを大々的に取り上げはするが、その秘密を暴いて事実を伝えるのではなく、周囲からの証言を交えつつ、さらにジャンデックを妄想していく。それは単純にひとつのエピソードとして面白く、ジャンデックの変人ぶりに笑うこともあれば、彼の音楽に対する姿勢や愛情を感じ取ることもでき、いつのまにかジャンデックについて、それなりの知識と興味を持つに至っているのだ。

「自分がこれから何をするかわからないけれど、できれば本を作り続ける人でいたいと思うんです。こうやって雑誌を作るのも、ぼくはただただ本という形態のものを作りたいという気持ちが強いんです。表紙は誰にして、その次にこんな文章が入って、というような台割や流れを考えるのが好きなんですよね(笑)。でも、本を作るのが好きで編集やライターをやってきたのに、ここ数年は自分の雑誌を作れていなかったし、『やり切れていない』という想いが強かったんです。だからこの創刊号は、自分の想いがより濃く出てしまった号かもしれない」。

「本を作りたい」というモチベーションが先に立つ福田は、何か問題提起をしたいとか、誰も知らない素晴らしい音楽を紹介したいというある種のジャーナリズムに動かされているわけではない。それよりも、音楽家が音楽を作り、レコードをリリースするのと似たような、福田の表現欲求から生まれでた産物がSDだと考えるのが分かりやすいだろう。だからこそ雑誌とは言え、「媒体」というよりは「作品」として、「福田の頭の中」という強さと、それを垣間見る楽しさがこの雑誌には存在するのではないか。

さらにSDが通常の音楽誌と違うのは、音楽家の特集を組んでいるにも関わらず、読後にジャンデックの音楽が聴きたくなるかと問われれば、「できれば聴きたくないかも…」と思ってしまう点だ。その理由は明らかで、ジャンデックのアルバム49枚を一人の「被験者」がレビューする記事があるのだが、「これはヒドイ!・ゴミ同然・ひとつ前のレビューをコピペしたいくらいだ…」などなど、精神実験の様相を呈している(もちろん褒めているものもある)。要するに、音楽が面白いからジャンデックの特集が組まれたわけではないのだ。それについては福田が、「自分が好きな秘蔵の音楽を紹介したいというより、読んだ人が促されたり、自分でも何か作ってみようと思えるものを作りたいと思ったんです」と言う通りだ。たとえその音楽自体に興味がわかなくても、驚く程ストイックに音楽をリリースし続けるジャンデックという1人の人間の生き様を目にした時に、読者は自分の生活や考え方に、強い影響を受けるだろう。

「海外の小さい雑誌を見たときに、何が書かれているのか分からなくても、その存在自体がすごくかっこよかったんです。そういうのが、雑誌を作りたいと思ったきっかけかな。中学校とか高校の時に読んでいた雑誌もそうだった。周りには退屈な学校や日常以外なにもないんだけど、雑誌を開いたらかっこいい人の写真が載っている。ぼくは批評文みたいなものとは距離を置いてやってきているけど、そういう『存在』が自分にとっては批評的なものだと思っています」。

福田にとっては、「かっこいい」存在に触れることが自分の今を観測する格好の方法なのかもしれない。それはジャンデックの特集にも色濃く反映されていて、かっこいい生き様を見せつけられた時に刺激される、自分への挑発にも似た憧れが、自分を今のままで終わらせない起爆剤となるのだろう。批評とは、何も難しいことはなく、単純に、「このままではいけない」という気づきを与えることなのではないかと思わされる。この『インディペンデントマガジンの逆襲』という企画、そしてここで取り上げさせて頂いた8誌に共通するのは、たとえその雑誌が一義的な「批評」に取り組んでいないように見えても、読者や取り上げる対象に対して何らかの提案や気づきを提供しているという、確実な「批評性」が存在している点だ。そしてその批評性は、社会の中でいつの間にか失われてしまう様々な価値や、まだ認められていない価値を捉え、多くの人々に刺激を与えていくだろう。

自動でウィンドウが開かない方は
コチラをクリック!