CINRA.NET CINRA MAGAZINE CINRA RECORDS exPoP!!!!! CINRA MAGAZINE Volume17

その日ぼくが見た、インディーロックの「旅」について

文:神保勇揮
写真:伊原正浩

2008年2月11日。21世紀最初のディケイドがもう終わろうとしている。これを読んでいる人がこの日をどう過ごしていたかは知らないが、この日は高円寺クラブライナーで「KOUENJI R&R PANIC!VOL.13 〜GREAT R&R JOURNEY〜」というイベントが行われ、ARTLESS NOTE、マヒルノ、ヨルズインザスカイ、THE NOVEMVERS、MEAT EATERSの5バンドが出演した。インディーロック好きにとって「ハズレ」が1つもない豪華なメンツだったのだ。
高円寺という地名から連想されるのは、やはり中央線文化である。ただ、これらのバンドはどれもそういった香りがあまりしない。音楽性もバラバラである。だからこのイベントが渋谷で、下北沢で、地方で行われていてもそんなに違和感は無い。それは根無し草的であり、良くも悪くも「○○系」という囲い込みとしてのシーンが生まれないという意味ではなく、むしろ根無し草的であるからこそバンドの固定ファンとたまたま訪れた人が入り乱れる総合格闘技の様相を生むとさえ思う。ぼく自身も千葉に住んでいるのであまりこの辺りに来る事はないし、良いバンドが出るイベントがあるから来ているだけだ。イベントが終わればそのまま家に帰り、また次のロックンロール・ジャーニーはどこかで続く。その頃には別の素晴らしいバンドが生まれているかもしれないし、生まれてないかもしれない。ただ、旅自体が続くだけだ。東高円寺駅からクラブライナーまでの単純な道のりに迷ってしまうようなぼくだからこそ、「意味付け」を回避していたこのイベントは、少しばかり居心地が良かった。

ARTLESS NOTE
初期衝動まみれのパンクロックが変化する「イタズラ」

ドリンク代を払い、たまたま見つけた知り合いと喋る。するとステージと楽屋を繋ぐドアが開いたり閉ったりして、奇声が聞こえてきた。「総合格闘技」の一戦目を飾る、ARTLESS NOTEだ。このパフォーマンスに観客の半分も気がついていないだろうが、メンバー全員が21歳と非常に若く勢いのある彼らの中学生男子的マインドを体現しているのだと思う。素晴らしい読者諸氏は誰も気がつかないイタズラに命をかけたことはないだろうか(ぼくは小学生の頃男女10人で恋愛系のドッキリをしかけまくった経験がある)。マンガでいうところの「稲中」や「浦安鉄筋家族」的な無法状態すれすれのラインで閉鎖的にならずポップな笑いに昇華されていくアレだ。しかしARTLESS NOTEはお笑い芸人ではなくロックバンドである。
ギター・ドラム・ドラム+シンセサイザーという変則的な編成ながら、彼らの楽曲は非常に初期衝動的である。ギターボーカルのセキネが絶叫を重ねながら硬質のギターサウンドで突進しまくり、それに呼応するように二台のドラムのビートが誘爆を広げていく。もちろんドラムのカネコ、ドラム+シンセサイザーを担当するミズタニも曲中のあちこちで叫びまくる。
ただ、ここでも彼らの「イタズラ」が作用してくる。変則編成をフルに生かし、「世界グッドモーニング」「ドアー」など彼らのライヴで良く演奏される曲は初期衝動まみれのパンクロックが突然ポップな歌ものに変化したり、ウネウネとしたシンセサイザーが入り込んでくるものばかりだ。彼らを初めて見たような客はその変化にどうノっていいのかわからず戸惑っていたが、次からはきっと展開に合わせて体を揺らすポップな共犯者になっているだろう。現にそうなっている人もちらほら見受けられた。
ポストロック風味なのに妙に踊れる「街をあるけば」でセキネが指揮者のように手を振ってグルーヴを調節し、ライヴが終わった。この間30分。コース料理のように様々なバンドを味わうには丁度良い時間だ。

マヒルノ
強度・ユーモア・オリジナリティ

次に登場したのはマヒルノだ。メンバーの半分以上が髪がもじゃもじゃしていて柄モノのシャツを着ているという、いかにもロックな格好で登場してくる。左右のギタリストがロード・オブ・ザ・リングに出てくる小悪魔みたいに何かをつぶやいたと思ったら、1曲目の「ダス・ルネッサンス、ダス・ディケイド」が始まった。
マヒルノは日本語ロックの歴史の延長線上にありながら強烈なオリジナリティを持つバンドである。「オリジナリティ」という言葉の定義を考えてみると、それは恐らくバンドのルックス・楽曲・歌詞・パフォーマンスといったありとあらゆる要素が「そうでなければならなかった」という必然性を帯びているという事だろう。日本語ロックのオリジナルとされているはっぴいえんどは、日本語詞がロックのリズムに合わないと批判されながらも歌謡曲的なメロディーと文学的な歌詞をミックスさせ、これが必然だ!と言わんばかりに後の評価を勝ち取っていった。マヒルノは結成3年目にして驚くほどの演奏の強度でその「必然性」を既に獲得している。音楽性は全く違うが、例えば演奏はボロボロのセックスピストルズがあれだけ受けたのは演奏力うんぬんではなく、過激な歌詞やファッションなどバンドの全体の強度・必然性を持っていたからだろう。
ギターボーカルの赤倉はCINRAが主催しているイベントexPoP!!!!!出演時のインタビューで「楽曲制作にあたって深みや奥行き、気品、ユーモアについて意識する事はある」という発言をしているが、この「ユーモア」はマヒルノの必然性を理解する上で大きなキーワードだ。メンバー全員がこれを100%理解しているからこそ、ギター・ベース・ドラム・歌・パフォーマンスの全てが「そうでなければならなかった」状態になり、ひいてはガッチリした演奏・強度に繋がってくる。最後の曲の途中で赤倉が目にガムテープを張りながら演奏していたのも「ロック的なユーモア」としての舞台装置(それでも余裕で演奏!)だし、予定調和を重んじるハードロックという音楽を選択することによって、逆説的にギターソロやミディアムテンポ重視の楽曲といった「いかにもハードロックなもの」からこぼれ落ちる散文的な歌詞の面白さやバンドの強度に気が付くという点も実にユーモラスだと思う。「もし僕らの演奏がうるさいと思っていたら耳を塞いでください。音量下げますから」というMCがあったが、誰もそんな事をせずに踊っていた。

ヨルズインザスカイ
全ての音が世界の構成要素をずらすダンスミュージック

今日の旅も折り返し地点。そろそろお酒を飲みながら観たいなーと思ったのでビールを注文して、1週間ぶりにお酒飲んだ! うひゃーい!! となっていると3組目のヨルズインザスカイが登場した。
このバンドはまだ観た事がなかったのだが、大阪のバンドと聞いていたのでかなり期待していた。東京までやってくる関西のバンドというのは、大抵並外れた個性を持っているからだ。

「ヨルズインザスカイです。一緒に踊りませんか?」という彼らの唯一のMCから始まった音楽は、良い意味で予想通りだった。ぶっ壊れたファミコンから出てるようなベース、それに重なるノイズギター、踊れるビートのみを叩きまくるドラム、そして歌詞が全く聴き取れないボーカルの金切り声。スッカスカのビートに凶暴なノイズギターが舞う「デタラメ」などからわかるように、強烈なNYアングラ臭の漂うノーウェーブなバンドである。若いインディーバンドにありがちな「ノーウェーブっぽいささくれたギターサウンドだけ採用」といったそれっぽさの追求ではなく、全ての音が世界の構成要素をずらす、あるいは壊そうとしているそれは「本物のバンドだ」という書き手のクリシェさえ超えてしまいそうなほどに圧倒的な快楽を鳴らしていた。現に周りの女の子が何人かイヤそうな顔をしている。当たり障りのないロックというフザけた語義矛盾をぶっ飛ばしてくれるのは、いつだってこんなメーターが振り切れまくってるバンドだ。それぐらいが丁度良い。ぼく自身も彼女らに見せつけるように踊りまくった。

THE NOVEMBERS
轟音の中に消えゆくキレイな音、あるいはキレイな感情

次はTHE NOVEMBERS(以下、ノベンバーズ)の出番だが、転換が始まると同時に背が低くてちょっと儚げな女の子(さっきのドン引き女子も含む)が一斉に前に集まり始め、しまいには前から三列が全員女の子で埋まってしまった。しかし、ノベンバーズが出てきてもキャーという嬌声が上がるわけではなく、彼女達はただメンバーを見つめていた。たぶん、そういった事からアンチ・アイドルファンとしての姿勢を示したいということなのだろう。
そして、演奏が始まる。轟音と共にメンバー全員がまるでムチになったように体を激しく揺らし、楽器を振り回す。曲が終わるごとにギターボーカルの小林は何度も何度もギターを高く掲げ、それは何かを掴みたくて仕方無いようにも映った。
ノベンバーズの楽曲はこの日も演奏された代表曲「バースデイ」の

そして今も
忘れていく どうしよう
清らかなあの気持ちも

という歌詞のような、今ここにあるどうしようもなくキレイで儚いものが消えゆく瞬間を轟音オルタナ系のサウンドに乗せて放つものが多い。演奏、動き、絶叫と表現できるものを総動員してオーディエンスに何かを伝えようとしている姿をぼくも固唾を飲んでじっと見守っていた。
ぼく自身ノベンバーズのファンで、彼らのライヴにはよく行くのだが、このバンドは持ち時間が長い方がメンバー全員が満身創痍になりつつも(終了後に全員がふらふらになったり、ぶっ倒れてアンプに突っ込みながら退場するライヴもある)良い演奏に出会える機会が多いように思う。彼らの音はメジャー感もあり、ライヴもUKロック的予定調和で終わってしまいそうなイメージを持たれがちだが、メンバーの余裕がなくなり演奏が雑になるにつれて小林・マツモトの両ギタリストによるヤケクソなギターノイズが炸裂しステージ上が混沌としてくる。特にマツモトのパフォーマンスは必見で、毎回予定調和を崩すかどうかは彼にかかっていると言っても過言ではない。マイクスタンドが倒れたりアンプやエフェクターの機材トラブルが発生するような状態の中、ぼくはいつもワクワクして仕方がない。得てしてそういった瞬間が最も輝いて見えるからだ。
今回のライヴは比較的小林の歌が聴きとりやすい演奏になっていたものの、逆にそれが予定調和的になってしまい完全燃焼しきれずにフラストレーションが溜まっていたのかもしれない。
そう考えると、小林が曲が終わる度に何度も何度もギターを掲げていたのも現状より一歩進んだ「何か」を掴みたかったのだろうか。

ノベンバーズの演奏が終わったのは22時前だったが、それと同時にさっきの女の子ファン達が結構帰ってしまっていた。かなり若い子が多かったので門限かよーと思いつつ、やっぱり帰ってしまうのは勿体無い。次に演奏するまだ見ぬバンドが自分の人生を変える音楽を奏でるかもしれないのに。

MEAT EATERS
汁まみれの姿から見える最低な感情と最高のグルーヴ

事実、総合格闘技のトリを務めたMEAT EATERSはどえらいバンドだった。職人風の坊主でメガネをかけた男性が現われて演奏を始めるや否や、この男性ことボーカルの松本は体からものすごい量の汗を吹き出しながらダイナソーJr.直結の轟音泣きメロギターを炸裂させた。メガネが取れてはかけなおし、いつの間にか取れてはかけなおし、伝った汗はマイクからも垂れ始め、鼻水を垂らしながら「でもそんなの関係ねぇ!」と言わんばかりにギターを鳴らしている。そんな中何故かぼくは初恋の女の子を思い出して、甘酸っぱい気持ちになっていた。ちなみにその娘にラブレターを送ったらビリビリに破かれた思い出があるんだけど、MEAT EATERSの「首」という曲の歌詞には

世界が
糞なのは
自分自身が
糞だから

という一節がある。ああもう。机に近づくだけで泣かれたりしたよ。クソなのは世界でもその娘でもなく確実に自分だった。
まさに「なりふり構わぬ」という形容が似合うMEAT EATERSの演奏にぼくは一目惚れだった。松本の豪快なギターが炸裂しまくる名曲「レミング」では松本の鼻水具合も最高潮に達し、もう泣いていいんだか笑っていいんだか真剣に観た方がいいのかよくわからなくなっていた。彼を笑えばそれで済むのかもしれないが、そうする事によって失ってしまう、それこそ初恋の頃の気持ちのようなものをそんな簡単に捨てちゃっていいのかよーとぼくは一人で悶々としていた。
他の人はどう感じているんだろうと思って辺りを見ると、どのバンド目当てで来た人もはにかんで苦笑いをしているような、不思議な一体感が生まれていた気がした。やっぱりみんな各々のモヤモヤと戦ってたのかな、と妄想すると少し安心する。そして30分間の演奏が終わる頃には、4時間立ちっぱなしの疲労と良いものを観せてもらった感動とが入り混じった心地良い感情で、不思議とアンコールの拍手を叩く気はしなかった。終わった後に、すぐさまスタッフらしき人に「最高でした」と伝えてCDを買った。

あっという間だった4時間の旅=ライヴが全て終わり、余韻に浸る暇もなく外に出される。地上に出たところで別のライヴのフライヤーをもらい、少し離れたところから入口を見てみると、何事も無かったかのように周りのローソンなりラーメン屋の明かりがそこには開演前と同じようにあった。こんなに良いライヴだったのに、他のところでは普通に時間が過ぎていて、彼らの良さを知らない人もいっぱいいるんだと思うと何だか急に泣きそうになった。ぼくはまだどこにも行けてないし、だからこそ次の場所に向かう。

 

出演バンド オフィシャルサイト

ARTLESS NOTE
http://www.geocities.jp/artlessnote/ (official site)
http://www.myspace.com/artlessnote (myspace)

マヒルノ
http://sound.jp/mahiruno/(official site)
http://www.myspace.com/mahiruno (myspace)

ヨルズインザスカイ
http://www.yolz-web.com/index.html(official site)
http://www.myspace.com/yolzinthesky (myspace)

THE NOVEMVERS
http://the-novembers.cure.to/(official site)
http://www.myspace.com/thenovembers11 (myspace)

MEAT EATERS
http://www.meateaters.jp/(official site)
http://www.myspace.com/meateatersofficial (myspace)

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