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アートの魅力を教えてくれ!
川村記念美術館ガイドツアー

「小旅行気分で行けるナイスなデートスポット!」なんて紹介をしたくなるほど、自然豊かな景観と建築が美しい川村記念美術館。千葉県の奥地にあるこの美術館、所蔵する現代アート作品の質が非常に高く、常設展でも数多くの有名作品と出会うことができる。休日の息抜きスポットとしても、名作に出会える美術館としても楽しめる川村記念美術館だが、実はまだまだ、それだけではないのだ。毎日開催されている常設展の「ガイドツアー」、これが意外なほど面白い。現代アートの魅力をしっかりと解説しながらも、鑑賞者と作品の距離をそっと縮めてくれるガイドツアーの一部始終をレポートした。
(取材:柏井万作・幾代沙緒里・蓮井晶子 撮影:井手聡太・伊藤亜莉)

 

今回ガイドをしてくれたのは、もう10年以上この川村記念美術館でガイドスタッフをされているヨネモトさん。それでは早速行ってみましょう、川村記念美術館ガイドツアー!

最初の展示室で解説を受けたのは、印象派の画家として有名なクロード・モネの《睡蓮》(1907年)。

光の反映を描き出す
クロード・モネ 《睡蓮》1907年
睡蓮が浮かぶ池の水面を描くことによって、移り変わる太陽の光の反映を表そうとした意欲作。パレットで絵の具を混ぜて色を作るのではなく、絵の具をそのままキャンバスにのせ、人間の網膜内で混色させることによって鮮やかな色彩表現を獲得している。

さて、なぜヨネモトさんは現代アートの作品ではなく、100年前の作品から解説をはじめたのだろう? 美術館に何度か足をはこんだ経験のある人はご存知でしょうが、美術館の展示というのはたんに有名な作品を順番に並べているのではなく、コンセプトに基づいて「キュレーション」されている。
今回のガイドツアーも同様で、難解だと思われがちな現代アートの魅力を解説するために、まずは一般的な「美術作品」として教科書に並ぶピカソやルノワール、レンブラントなどの「絵画」と、現代アートの関係を丁寧に教えてくれる。
それではモネに続いて、最初の展示室で解説して頂いたいくつのか作品を見てみよう。

よ〜く見ると、マンドリンが見えてくる?
ジョルジュ・ブラック《マンドリン》 (1912年)
マンドリン(楽器)という立体的な物を絵画という平面の中に移し替えるにはどうしたらいいのか? そんな疑問から生まれたこの作品は、画家のマンドリンを眺める視線が移動していくプロセスを展開図のように描いた作品。1つの視点ではなく、様々な視点から眺めたマンドリンの部分が描かれている。

眠っている女性の面影が?
パブロ・ピカソ《肘掛椅子に座る女》 (1927年)
こちらも《マンドリン》と同じく、眠っている女性の顔が様々な視点から描かれている。この絵を見て、鼻や口がどこに描かれているかわかりますか? 作品の真ん中に描かれている白縁の円が、口なんだって。
作品の色彩がモノトーンになっているのは、眠っている女性の夢の中の感覚を描いているのかもしれない。

「ダヴィデ王の夢」なのにエッフェル塔が!
マルク・シャガール《ダヴィデ王の夢》 (1966年)
「ダヴィデ王の夢」ということで、旧約聖書に登場するダヴィデ王が描きこまれている作品。でも何故かパリのエッフェル塔が立っていたり、シャガール自身の思い出も描き込まれている。赤、紫、青、黄、緑など鮮やかな色彩が美しく、しかしこの絵が現実世界を描いているものではないことがわかる色使い。何よりも「自分の感覚にあった色」を使うよう心がけられた絵だ。

この展示室で特に重要だったのは、「平面に描かれる絵」でどんなことまで表現できるのか、多くの画家が新しい可能性を模索し始めている点だ。こうした可能性が追求されるようになった理由も当然あって、何よりも大きな出来事だったのが、19世紀になって写真術が発明されたことらしい。つまり、それまで写実的に描くのが当たり前だった絵画が、その役割の多くを写真に奪われてしまったのだ。写真の登場で苦境に立たされた画家たちの心中には、じゃあ絵って何のためにあるのか? そんな自問自答があったのかもしれない。そして、その「絵の可能性の追求」が、現代アートまで脈々と受け継がれてきている。

そうした美術の転換を解説するように、次の展示室には写真術が発明されるより前の時代に描かれた巨匠レンブラントの作品が展示されていた。教科書などで見たことがある人も多いかもしれない。

まるで本当の人肌のように追求された質感
レンブラント・ファン・レイン
《広つば帽を被った男》 1635年
最初に紹介したモネとは違い、タッチの形跡を感じさせないきめ細やかく仕上げられた絵画。印象派などの絵画とは違って、皮膚や毛、洋服など描かれている全ての物の質感を写実的に再現している。近くで見れば見るほど、その繊細な絵肌に驚かされます。

そして次の展示室で解説を受けたのは、ロシア・アヴァンギャルドを代表する画家マレーヴィッチが1917年に描いた絵。さてさて、この絵を見て「わからない」と思う人も多いかもしれない。この辺りからはお待ちかね、「難解な現代アートの解説」に話が移りはじめる。作品を見てもらえれば分る通り、何が難解かって、まずはそこに描かれた形が意味不明なのだ。現実にあるものを描かない、こうした「抽象絵画」ってどういう風に楽しめばいいのだろうか?

本当は親しみやすい? 感覚を表現する抽象絵画
カジミール・マレーヴィッチ
《シュプレマティズム》 1917年
これは画家がとらえた純粋な「感覚」を表現した絵であり、現実世界に存在する何かを描いたものではない。つまり予備知識を必要としないため、本当は親しみやすい絵画だとヨネモトさんは言う。黒い図形の下の方は、「重力や重さ、エネルギー」を、上の方は「動き、スピード」を感じ取れませんか? と問われれば、確かにそうかもしれないが…。

“不思議”を見つけるのが“わかる”への第一歩
マックス・エルンスト 《入る、出る》 1923年
ヨネモトさんに教わった絵を楽しむ1つの方法論に、「不思議を探す」というのがある。この絵も、人間らしき女性の手に人間が握られている=「人間じゃない何かを描いている?」という発見や、抱きつかれている木だけが隠れず前面に出ている点が普通ではない。この絵が描かれたのは第一次世界大戦後の、当たり前だった日常が戦争によって失われた時代だった。人間が生きていく中で無意識に作り上げてしまう「先入観=当たり前」に対する違和感が、この絵から感じ取れるかもしれない。

さて、だんだんと話が小難しくなってきたかもしれない。ともかくこの2作品で重要だったのは、平面絵画の可能性の追求はどんどんと深まっていき、ついには人間の内面や感覚を、形や色彩など抽象的な要素を使って表現するようになってきた、という点だろう。でもそんな作品、解説されれば「なるほど」と思えるかもしれないが、一人で見てたら間違いなくわかりません。正直言って自分自身、マレーヴィッチの作品は「ナイキのロゴマークに似てる!」程度の感想しか持てずに苦笑したわけだが、解説を聞けばなるほど、ナイキさんはスポーツグッズのメーカーらしく「スピード感」を表現していたのだろう。たとえば「文字」なんかも、丸ければ「可愛らしい」し、角張っていたら「カッコいい」などと無意識に感じ取るわけで、抽象的なアート作品も同じように「感じ取る」だけでいいのかもしれない。
それを証明するかのように、次の展示室「ロスコ・ルーム」では体感型のアート作品だった。

7つの壁で1作品。考えるより体感せよ
マーク・ロスコ 《シーグラム壁画》 1958―59年
ロスコの作品だけを飾るために作られた展示室。7つの絵(というか壁に近い)が組作品になっていて、展示室は変形七角形に作られている。
巨大な絵画に圧倒されて、もはやこの作品をどう捉え、解釈すればいいのか考える気も失せてくるが、「色彩が充満している中に身を置いて、体験する作品」ということらしい。作品を眺めるというより、そうした環境にいる自分自身を内省する。これだけ暗い色調に囲まれたら、ハッピーな物思いをするのは難しいし、むしろ不安が増幅されそうだ。

「ロスコ・ルーム」を出ると、次は2階に上がって「ニューマン・ルーム」へ。階段を上がりながら視界に飛び込んできたのは、真っ赤に輝く巨大な作品だった。「すごい!」と思うものに出会えば誰だってワクワクすると思うけど、この作品の迫力は誰にでも等しくインパクトを与えてくれるだろう。

色が画面から飛び出してくる!
バーネット・ニューマン 《アンナの光》 1968年
ロスコ同様に、こちらも体感型の作品だ。《アンナの光》と名づけられたこの作品は、一面を赤いアクリル絵の具で塗られている。そして作品に近づけば近づくほど、その赤い光に押しつぶされそうになる。よく見ると赤い画面の両端には「白い帯」が描かれていて、赤と白の境界線が緊張感をもち、エネルギーを発散しているそうだ。赤い平面の画面が、前後左右に飛び出してくる。

こうして何か特定の存在を描かない抽象画や、「見る」よりも「感じる」体験型の作品というのは、最初に紹介したモネやレンブラントなどともまた違った楽しみがあったようだ。その作品自体を楽しむというよりも、その作品が一つの装置、たとえれば遊び道具のようなものかもしれない。

さて、次は最後の展示室であり、遂に大本命「う〜んこりゃわからん!」と思いたくなるような作品が続出。「絵画ってなんだろうか?」という画家の疑問から生まれた作品群だけあって、見る側が同様の疑問を抱くのも仕方がない、かもしれない。

子どものころ、こんな絵を描いた経験が…
ジャクソン・ポロック 《緑、黒、黄褐色のコンポジション》 1951年
「これなら自分でも描けるんじゃないかと思うでしょ?(笑)」とヨネモトさん。「うん」と心の中でつぶやいたのは、僕だけではなかったはず。絵の具でキャンバスをメチャクチャに塗りつぶしてたら、こんな感じになりそうじゃないか。
でも、これだけ少ない色数で画面を構成するのは大変難しいらしい。色の重なりや配置だけで奥行きを生み出し、作家の「動き」を感じとれる絵画。筆で描くという従来の手法に疑問を投げかけ、絵具やペンキを棒などでしたたり落とすことで作品を描いている。

「絵画とは何か」という問題と疑問
アド・ラインハート 《抽象絵画》 1960-66年
一見して真っ黒だが、よ〜く眺めて見ると3層、9つのマスに分かれているのがお分かりになるだろうか?
この作品の描き方は解明されていないらしい。ポロック同様に、絵画の要素を切り詰めていって、必要最小限度の要素で作られた「ミニマル・アート」の代表的な作品。主観を排除した、ある意味で限りなくストイックな作風。

「真っ白=何も無い」というのは思い込みかも
ロバート・ライマン《アシスタント》1990年
今度は真っ白! だと遠目から見て思っていたのだが、キャンバスの上に残された画家の「筆跡」が照明に反応し、絶えず見え方が変わっていく。全面が白いからこそ、塗った形跡がテクスチャー(質感)として浮き彫りになっている。また、他の作品と違ってライマンの作品は「絵を壁にかける」というプロセスさえも作品の一部として感じ取れるよう、絵と壁の間に隙間があったり、絵を壁に固定する金具が飛び出ていたりする。

見えないものは見ちゃダメ?
フランク・ステラ
《トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)》 1959年
川村記念美術館はフランク・ステラというアーティストの作品を数多く所蔵しているが、この作品はステラが23歳の時に手がけたもの。キャンバスを黒いストライプで塗りつぶし、所々にキャンバス地が白く線のように残っているだけの作品。
ステラは、「イメージを排除する」ことを考えたんだそうな。つまりこの絵を見て、「この黒い絵に何が隠されているのか?」と“存在しない何か”を探し出そうとする人間の心理を拒み、テレビの画面を見るかのように、ただ「そこに見えるものを見ている」ということが作品のコンセプトになっている。

モネの解説から始まって、ステラの解説を終えるまで約1時間のガイドツアー。本特集では、アートの楽しみ方を「妄想」「見る」「知る」の3つに分類して紹介してきたが、今回は主に「知る」の側面からアートの楽しみ方をガイドしてもらった。
アートの歴史を解説してもらうと、時代によってその楽しみ方も変化しているのがよくわかる。レンブラントの写実的な絵画と、ニューマンによる体感型の真っ赤な絵、そして最後に見たコンセプチュアルなステラの作品では、作り手の意識も意図も全く違うし、その魅力を感じ取る視点というのも違っていた。簡単に言えばどんどん「概念」的な部分が重要視される傾向にあるわけだが、その背景には、アートが「当たり前」に対する問題提起を続けてきたことが影響しているのだろう。

正直言って、専門家じゃないんだから作品のコンセプトなどわからない。でも、わからないからこそ、自分なりに考えたり、感じたりする楽しみがあるんだろう。そしてその、楽しむための糸口を様々な角度からガイドしてもらえば、次からは一人でも十分に美術館を楽しむことができるだろう。それにアートを楽しむためのいくつもの視点は、単にアートを理解するだけではなくて、様々な物の見方の参考にもなるだろう。「作品と鑑賞者が何よりも大切」という川村記念美術館らしい、楽しいガイドツアーだった。

川村記念美術館
『リニューアル2008 コレクション展示 ー絵画の森ー』

会期:6月3日(火)―8月31日(日)
開館時間:9:30-17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし7/21は開館)、7/22(火)
主催:川村記念美術館(DIC株式会社)

http://kawamura-museum.dic.co.jp/

今回紹介した作品群は常設展として鑑賞することができますが、なんと8月31日まで、『リニューアル2008 コレクション展示 ー絵画の森ー』として同館所蔵の作品を一挙に楽しむことができます。毎日14時から行われるガイドツアーももちろん開催されています。作品とお客さんの距離をそっと縮めて向かい合わせてくれるような、仲人としての役割に徹してくれて実に楽しいガイドツアーなので、是非ご参加ください! ちなみに、海外で開催される『ロスコ展』に出品されるため、9月以降は「ロスコ・ルーム」が見れないとのことなのでご注意を(その後巡回して、2009年2月21日より川村記念美術館にて『ロスコ展』が開催される)。

 

以下、コマ用のテキスト
川村記念美術館は、美術作品だけではなく、豊かな自然に囲まれているのも魅力の一つ。東京駅から1時間の道程も、遠足気分で楽しめます。都内の美術館とは違う、非日常的で記憶に残る美術館見学になるはず。

元々はコレクションを展示するために作られたという同館、そのため各展示室は展示のコンセプトに沿って設計されており、部屋を移るたびに新鮮な驚きがある。各部屋にソファーが設置されているのも嬉しい。

自然に囲まれた美術館らしく、室内でも自然を感じられるように設計されている。通路の窓から見えた風景が、まるで1つの作品のようだった。

周りの鑑賞者に配慮して、ガイドツアーでは専用のヘッドセットを使用する。小声で話すガイドさんの解説が、ヘッドフォンから聴こえてきます。離れていても聴こえるし、静かに観たいときはOFFにもできて非常に便利。

ガイドツアー後には、ガイドのヨネモトさんと学芸員の林さんにお話を伺った。「作品と鑑賞者が何よりも大切」という一言が、実感を持って伝わってきた。

以前開催した展覧会『なぜ、これがアートなの?』では、アメリア・アレナスが提案した予備知識を必要としない対話型鑑賞プログラムを実践。ヨネモトさん、このプログラムを経験したことによって作品への入り込み方が変わったと言う。「美術館の中でも、作品について語り合いながら見て欲しい」と学芸員の林さんも。折角なので、取材後に同プログラムを実践させてもらいました。

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