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美術館で食わされるパスタはなぜこうも高いのか?

(文・撮影:たけだひろかず)

美術館なんて行かない。午後のデパート散策の前座扱いで足を踏み入れるオバちゃんや、下手に目が合ったが最後、数十分の薀蓄を聞かせられそうなオジちゃんや、過剰な理解で自分を鼓舞させる材料を仕込みに来たアート学生や、オシャレデートとは何かを一晩考えた結論として連れてきちゃったカップルなど、何かそういう、本体の周辺でざわついているメンツが集うにも関わらず、大人の嗜みとして高尚な位置に居座って決して譲らない感じ。その感じへ参加させるために1500円だか1800円だか払わせる、自信満々の美術館達。

美術館の中でも隣でも、大抵の場合、レストランやカフェが併設されてるもんで、これが押しなべて高くて偉そうで、ただでさえ足が伸びない美術館にあって、更に面倒くさい存在だったのである。行きもせずに、どうせああいうところのパスタとかって高いわけだろ、でっかい皿にちょびっと出しやがって、と愚痴ってきた。それを、身を持って体感して言える口を持ちたかったのだ。不純な動機だが、美術に対する純粋な動機を、僕はあんまり知らない。

●美術館には入らない。併設のレストラン/カフェのみに行く。
●1日で、東京の代表的な美術館5ヶ所(の併設レストラン)を巡る。
●全てのポイントでしっかりと飯を食う。パスタがあればパスタを食う。

これがルールだ。そして、そこにいる人達を観る。「皆さんがいてこその第四小学校なのです」という小学校時代の校長先生の話に準えれば、「美術館へ行く人がいてこその美術館」なのだ。美術館の周辺とそこに来る客も「美術館」なのだ。そのアートをとことん堪能させていただく。

国立S洋美術館
上野駅下車。10時12分着。館内にあるカフェが10時から開店しているものの、11時までは喫茶のみだという。早朝からパスタに喰らいついてやろうと事前にネットで「シーフードスパゲッティ(トマト味) 1260円」の存在を確認していただけに拍子抜け。仕方なしに「ケーキセット 750円」を頼む。チョコレートケーキとアイスミルクをそれぞれ選び、待つ。10時オープンのカフェに早速やってくる客などおらず、店内にいる5名ほどのウェイターが心ならずとも自分のことを専属でサポートしてくれる。ケーキが出てくる。しかし、アイスミルクが出てこない。手ぶらで近寄ってくる店員、「アイスミルクに氷を入れてもよろしかったでしょうか?」という今時指摘するのも恥ずかしいファミレス敬語で聞いてくる。「あ、はい」と答えると厨房に駆け戻っていく。すると氷がたっぷり入ったアイスミルクの登場。加減を知らない氷っぷりに呆れていると、いかにも美術館好きのマダムがお一人でご入場。3年前に浜崎あゆみがかけていたようなデカいサングラスを外してケーキセットをご注文。ケーキセットとはこういう方のものなのだわと、3口でチョコレートケーキを終わらせた自分、早々と退店。冷やすものを無くした氷が寂しく勝手に溶けている。

東京国立K代美術館
竹橋駅下車。11時8分着。美術館本体を避けるように奥の階段を登ると、そこにレストラン。オープンテラスからは眼前に皇居が広がっているようで、「テラスは開いてますか?」を繰り返すお客さんに紛れて「中でお願いします」と一言。パンくずをこぼしただけで「いけませんわお嬢様」と言われそうな白テーブルに一人で腰をかけ、昼からワイングラスをかたむけている熟年夫婦も多い中、「スパゲティーカルボナーラ 700円」を単品で注文。サラダ・ケーキセット(+500円)を強く勧められるが、固辞。飲み物は、水。お昼から1200円のセットとワインを頼んで1名2000円強の人達には、美術館の入館料なんていくらでもいいものなのだろう。こちらは1200円か1500円かでも議論の対象なのだ。予想通り、大きな皿に申し訳なさそうに盛られたカルボナーラが登場した。TシャツにGパンというスタイルがそもそも自分だけという環境の中、片手で携帯メールを打つという、もっとも若者らしい立ち振る舞いで嫌な視線を浴びてみる。小学校の給食時に良く聴いたクラシックが流れてきたが曲名を思い出せず、まるで保護者会のようになった周りの風景がどうにも落ち着かないので退店。

国立S美術館
乃木坂駅下車。12時13分着。ここのロゴマークは佐藤可士和デザインだったはず。しかし、メインロゴは当然にしても、どこまでが可士和なのかが分からず、これは可士和か、あれは可士和かと、可士和の範囲に戸惑う。3階建ての各階にレストランかカフェが備えられており、上階へ行くほど値段が張る。ここはひとつ3階で食ってやろうかと思ったが、どうにもコース料理がメインのようで、一人で前菜からメインからデザートまでこなす耐力も財力も無い。「階」級社会を感じ、2階のカフェに入ることとする。ローストビーフのサンドイッチセット(1000円)を頼む。頼りないローストビーフをパンで必死に隠したサンドイッチが登場。自分でも気付かぬうちに3きれをたいらげ、スープを飲む。スープ、旨い。しかしだな、3きれで1000円とは何事だと憤ったところで、それはここのユーザーの多くにとっては何でもないことなのだろう。店員がドトールの倍はいる。なぜならば、値段がドトールの倍だからだろう。ちょっとした軽食が4桁とは、ちょっとしていないのである。

Sントリー美術館
徒歩。12時54分着。この東京Mッドタウンって出来上がって間もないと思うんだが、日曜の昼に殆ど人がいねぇぞ。大丈夫なもんなのかね。しかし、それぞれのショップを覗き見すると、何食わぬ顔で単価の高そうな買い物をしていらっしゃる。僕はこう思う、高い買い物は、何食う顔でしてほしいと。館内にあるSントリー美術館も入り口を観る限りでは寂しい客入りのようだ。隣にある和テイストのカフェに入る。1日50食限定の「ふやき御汁弁当 1500円」を頼む。お昼時にも関わらず店内には3人しかいない。限定食はもはや限定ではないようだ。限定されているのはむしろこちらだ。ここでも、店員の視線が集中する。和カフェに巨体男子1名、その気持ちは分かる。素材の良いお子様ランチのようなコンパクトなお弁当と汁物が運ばれてくる。慎重な味付けである。冒険心の無い味付けとも言える。限定と謳うからにはそこには刺激的な冒険か絶対的な美味が用意されているべきなのであって、その優等生っぷりへの献身的な返答として、とりあえず完食を急ぐ。あと1件控えている。さすがにお腹に余裕が無い。歩いて六本木のABCへ。アート本コーナーを覗くものの、堆積した腹の中がそこに居座ることを拒絶し、バスで渋谷へ。

東急B化村 Bunkamura ザ・ミュージアム
渋谷駅下車。14時17分着。エスカレーターでB1Fに降り、美術館の隣にあるレストランへ入る。まだ、堆積したお腹から少したりとも解放できていない。さすがにきつい。しかし、メニューにはパスタセットとある。ルールはルールである、独りだからこそ遵守しなければならない。「パスタセットB 1050円」を頼む。パンを何切れか、そして冷たいクリームスープをこなすと、間髪入れず出てきたメインのパスタのボリュームが意外と多く仰け反るものの、喉までパスタが迫ってます、ってくらいの限界点で何とか食べ終える。食後のコーヒーでパスタを下らせていると、隣のカップルの会話が耳に入る。美術館の展示がバラ展だったからなのか、キザな男のトークが始まる。「キミは自分自身の恋から解放されなきゃダメだよ」。決まったぜと言わんばかりの男子、それなりにウットリしている女子、必死にコメントをノートにメモしている自分。薔薇はいつ出すんだい!と期待して横目で見る自分。薔薇は一向に出ない。自分自身の恋から解放されるとはどういうことなのか、と結構真剣に悩んでいると、さて行こっかバラ展に、と立ち去る二人。そうかこれからバラ展か、その前哨戦としてのご発言、そのテクニックに打ちひしがれて……る場合じゃない。下腹部からお通じ。これぞ解放、何よりの説得力。

5件で5000円、「美術館で食わされるパスタはなぜこうも高いのか?」という流行の新書っぽいタイトルを付けてみたが、そんなに高いわけでもない。高いように感じる、という程度である。しかしその値段以上の緊張感を強いられ、その緊張感をお店側が懸命に維持しているように思えたのだった。何だかんだで私立の学校にはそれなりの子しか集まらないから安心、その類いの消極的な選民意識がまずニュートラルな段階で発生してしまっているのではないか。一度身を置くと違和感は生じないのだろうが、身を置かないと違和感が生じてなかなか消えないのだ。美術館は、その点で不器用である。汎用性を最初に捨ててしまっているからである。美術館として、美術館ってこんなもんだろうと考え、フォーマットを探し出し、倣ってしまう。そこに注ぎ込まれるアートが、こぼれても、足らなくとも、いつも同じ容量でこなしてしまう。その中にあって「アート」という言葉だけが自由度を増す。分かってもらえると思うが、指差せば「これがアート」だと言い張れるような、その環境だ。アートという記号だけが汎用性を持ってしまう。何でも出来ちゃっているような気がしてくる。美術館が優等生用に出来すぎている余り、ちょっとした悪ガキがとんでもなく先鋭的なものに見える。錯覚、なのかもしれない。

苦し紛れに最後のスパゲティーを口に巻き込みながら、「美術館」と「アート」という言葉の関係性を、「私立校」にいる「不良」と置き換えたくなった。私立校にいる不良、そんなに怖くない。私立校にいる不良を、ホンマもんの不良は「あんなもん、たかが知れてるぜ」と笑い飛ばすらしい。

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