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>巨匠ism 〜余は如何にしてクリエイターとなりし乎〜

どんなビッグネームでも、修行時代を経て現在に至っているはず。本連載では、各界の巨匠たちをゲストに招き、デビュー前夜から「オレ流(巨匠ism)」を築き上げるまでの苦労話、現在の創作活動にいたるまで、セキララに語っていただきます!

 

第2回目のゲスト:
鳥井シンゴ先生(発案家&グラフィックデザイナー)

「いいデザイン」と「問題解決につながるデザイン」ってイコールじゃないだろうか? その疑問を追いかけていたら、「発案家」という肩書きを持つ鳥井シンゴさんに行き着きました。鳥井さんは、グラフィックデザイナーとして出発しながら、最近はコンビニや街中でみんなが目にするような、でっかい「ビジネスのしくみ」までデザインしている人。初の著書『儲かる発想』(講談社)の売れ行きも好調な鳥井さんに、デザインと発案、そしてお金をめぐるお話を聞いてきました★

取材・構成:松本香織 撮影:柏木ゆか (2008年5月12日取材)

 

 

何でみんなデザイナーになりたいって思うのかな?

―:今回のゲストは、「発案家」の鳥井シンゴさんです。耳慣れない肩書きですが、企業のロゴをQRコードの代わりにするアイディアなど、誰かの不便を解消するような「ビジネスのしくみ」を発案し、企業に売るようなお仕事を中心に手がけていらっしゃいます。しかし、お仕事の出発点は「デザイナー」だったんですよね。大学も美大のグラフィックデザイン科に進まれていますし。なぜそちらに?

鳥井:うちの父がデザイナーなんです。

―:お父様の影響?

鳥井:影響ではなくて、他の職業に就くよりも親と同じ職業に就いたほうがラクだろうと思ったんです。「実家が八百屋だから、八百屋は絶対イヤ」と 反発する人っているじゃないですか。すごくイヤならしょうがないですけど、市場原理に反していますよね。もうそこに八百屋の基盤ができているのに。

―:ノウハウも蓄積されていますしね。

鳥井:そう。基盤があって、流通経路なんかも全部知ってるわけじゃないですか。自分で八百屋をやらなくても別にいい、ノウハウを活かして「らでぃっしゅぼーや」とか「Oisix」みたいに「野菜を宅配する」という新しい商売をやればいいと思うんですよ。ぼくの場合は親がデザイナーだったし、昔からそこでバイトをしてたりしたので、特に何も考えず、「デザイン事務所に入るのが一番ラクだろう」と。で、デザイナーになったんですけど、「何でみんなデザイナーになりたいって思うのかな」っていつも思うんです。

―:え?

鳥井:(同行したCINRAデザイナーに)デザイナーって、けっこう大変じゃないですか? 何でなりたいと思うのかな?

デ:できあがってくるものが、パッと見てかっこいいからじゃないですかね。

鳥井:え〜と、生産する喜び、みたいな?

デ:いや、デザイナーはパッケージとか、人の目に触れるかっこいい部分を手がけていて、高級住宅地に住んでいるというイメージが刷り込まれていて。まさか中央線沿線のアパートに住んで、ガタガタやっているのが現実とは思わないわけですよ(笑)。

鳥井:なるほどね。いろんな職業の実際のところがあんまり知られてないっていうのは、あるかもしれないですね。実は八百屋、すげぇ儲かってるとか。「職業を知る」って、けっこう大事なことなのかもしれないな、と思います。とにかく、デザイナーって大変だよねっていつも思う。意外にリターンは少ないし。

―:と言いながらも、「親の築いた基盤が使えるから」という理由でデザインを仕事に選ばれた、と。その合理性は、なんだか理系っぽいですね。

鳥井:どうでしょう、もともと絵を描いたりしていたので、文系かもしれないですけど。今いわゆるウェブの仕事とかもやっていますが、あれって理系・文系どっちつかずなんですよね。コンピュータの学校からウェブの分野に来る理系の人もいますし。でも、絵が描ける人が勉強してウェブをやるほうが、理にかなっているような感じがします。

―:なぜですか?

鳥井:絵の描けない人がイメージを膨らませて画面に落とし込むのって、大変なんですね。そこの訓練をやり直したほうがいいよ、と思うことがよくあります。これは人から聞いた話ですけど、あるゲームプロデューサーが、デザイナーからあがってきたキャラクターの絵を見て、「もっと躍動感がほしい」と注文をつけた、というんです。それを仰せつかったディレクターは、デザイナーに伝えた、と。するとデザイナーは「どういうふうにすれば“躍動感”が出るんですか?」と質問した。「それを考えるのがデザイナーの仕事だろ!」と言っても、「分かんないです」。それで「目に白い星を入れるとかしてキラキラした感じを出してよ」と命じたら、「星はいくつ入れますか」。それじゃ単なるオペレーターじゃん! って。そういうことがままあるんですよ。

―:命令に従うだけだったら、誰にでもできますしねぇ。

鳥井:デザイン業界の人たちが、自分たちの首を絞めていっているような気がするんですよね。プロとアマの差異がなくなって、デザイナーの価値がどんどん下がってきているような。今はMacが使えればデザインができると思っている人がたくさんいますし。

―:まあ、いちおう形はできますからね。

鳥井:そうなんです。それを促進してしまったのが、実はプロ。いわゆる製版屋さんがデザイン分野にいけるんじゃないかということで、Macを導入し始めたのが最初です。顧客もデザイナーと製版屋さんが手がけたデザインの違いが分からないんですよね。そこから「自分たちでデザインしてしまえばお金がかからない」という発想が出てきて、パワーポイントで作ったデザインを「これ印刷してください」って持ってくるという話も、今ではめずらしくないんです。

―:う〜む。

鳥井:そうなると、デザイナーに頼むときに「見た目」じゃない価値を生むかどうか――たとえばプロが作った広告を出せばより商品が売れるとか、そういった「効果」がないとなかなか難しくなります。だからデザイナーは、商品開発・企画・プロデュースみたいに、もうちょっと上の段階にいくしかない。全体を見て、商品のことを理解する、というかね。デザイナーの立場にこだわるのではなく、もっと深くプロ意識を持っていかないと生き残れない時代になってきているんじゃないかとは思っています。

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でも、スーパーのチラシを作る仕事とかもやめません

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でも、スーパーのチラシを作る仕事とかもやめません

―:それがデザイン部分だけでなく、全体を見る発想、つまり「発案」に結びついたわけですね?

鳥井:そうですね。最初に就職したのは代理店で、クリエイティブをやっていたんです。けれど「自分が作ったもの」と「顧客」との距離が遠い。間に営業マンが入ってしまったり、先輩ディレクターがいたり。本当に顧客のためになるものを作ろうとした場合、間にいる人たちが不要だったりするんですよ。

―:伝言ゲームがうまく伝わらなかったりするんですよねー。

鳥井:必要なのは、クリエイティブに口を出す人ではなく、マーケティングなんかをしてくれる人なんです。たとえばエンドユーザーの意見を聞いてきてくれる営業さんとかね。エンドユーザーの気持ちも、実はアンケート調査してみました、と。これを見てクリエイティブを作ってくださいね、っていう営業マンだったらいいんですけど、そういう人は皆無です。「クライアントの担当者さんは、赤が好きなんでー」みたいなことを言う人が多くて。

―:本当に気にしなきゃいけないのは、「担当者」じゃないのに。

鳥井:そういうクリエイティブも、規模が大きいので、おもしろくはあるんですよ。でもちょっと違うかなぁと思い始めたとき、某ブランディング会社に声をかけられまして、そっちに籍を移しました。そこで何を学ぼうかと思ったかと言うと、デザインの限界値。デザインだけでいくら稼げるのか。「自分たちの価値を高める」という方向で、どこまでいけるのかを知りたいと思ったんです。そこでは5億円規模の仕事を経験したんですけど、まあそれが限界かなあ、と。でもビジネスって実はもっと大きいものじゃないかと思ったんです。給料はすごくよかったし、仕事を昇華させる方法も学べたけど、もっと他のことが知りたいと考えるようになったんですね。それで他の会社に移って、しばらく普通にサラリーマンをしながら、少し余裕のある時間を持ちました。そのとき、いろんな人に頼まれた仕事をちょこちょこやり続けていたら、ある日そっちのほうが給料の金額をはるかに超えてしまった。それで「会社にいる意味があるのだろうか」と疑問を感じて、27、8歳のとき独立した、という感じなんですよ。

―:独立当初はどんなお仕事を?

鳥井:デザインをやってたんですけど、基本的には中小企業の社長さんと一緒に、なるべく直でやりとりできるようなものを。そうすると、商品のこともよく分かるじゃないですか。ぼくがあんまり人を雇わないのも、顧客からいただく報酬の額を下げられるからなんですよ。社員を雇っていると、そのぶんの給料を稼がなきゃいけないじゃないですか。でも、雇わなければそれをしなくていい。つまり「このクリエイティブに40万はないだろう」と自分が思ったら、10万にしてもいいわけですよ。自分さえ暮らせればいいから、その額ぎりぎりまでは下げられる。

―:「社員への給料」という名の固定費を抑える、と。

鳥井:そうそう。あと、社員を雇ったとしても、それぞれに得意分野がありますよね。彼らに合う仕事を探してくるのも大変なんですよ。それなら何かの仕事を請けたとき、それが得意な人に頼んだほうがいいのかなと思ってそうしています。それも「すごい人」にね。人件費が安いからといって学生アルバイトに頼んだとすると、クオリティが下がる場合が出てくるじゃないですか。そこで自分が手を出す必要があったら、意味がないわけ。ならば最初からすごい仕事ができる人に、なるべく安くお願いしたほうがいい。ぼくはそこで足が出てもいい、と思ってるんです。顧客満足が第一なので、こっちがトントンになっても、顧客にはちゃんとしたものを出す。

―:お客さんとのつきあいって、長い目で見たほうがいいですからね。1回の取引で利益を出す必要はない、と。

鳥井:そうなんです。もっと言えば、利益を出す必要もないと思っていまして。たとえば、先ほどご紹介いただいたように、企業のロゴをQRコード代わりにするというアイディアを、ある会社に売ったことがあるんです。そのとき、×円いただいたんですね。

―:×円……。なんかもう、私らからすると、未知の世界です。

鳥井:でもそれは、向こうが提示した金額なんです。ぼくから「×円ください」と言ったわけではなくて、「このシステムに対していくら払いますか」と聞いたら、「×円でいきましょう」と。でも、スーパーのチラシを作る仕事とかもやめない。

―:えっ、なんで?

鳥井:なんでだろう、他にやる人がいないからな。他には機械メーカーやお菓子メーカーなんかのコンサルとか、新商品開発とかもやらせていただいてるんです。ぼくのコンサル費は、意外に安いんですよ。△円くらい。月に何回か会議に参加してアイディア出しのところを手伝うとか、そういった感じですけどね。ぼくからするとこの場合、しゃべるだけ。まさに「仕入れ値ゼロ」。

―:確かに、そりゃそうですけど(笑)。

鳥井:そういう仕事がたくさんあれば、フツーに暮らしていくだけだったら、余裕で稼げる。それ以外に発案の権利金みたいなのも、毎月分割して入ってきますけど。でもね、どこかに収入の分岐点ってあるんですよ。あるところを超えると、どうでもよくなるんです。仕事が楽しければそれでいいと、ぼくは思います。

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普通に考えて新卒を採用、ってありえないですよね

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普通に考えて新卒を採用、ってありえないですよね

―:いくらが「どうでもいい」の分岐点でした?

鳥井:いくらなんですかねぇ? ぼくはセミナーをするとき、「お金はどれぐらいあればいいですか?」って訊くんですよ。そうするとだいたい、「いまの給料プラス30万くらいほしい」って言うんですよね、みんな。いま30万であれば、60万。年収700〜1000万くらいがたぶん理想なんだと思います。ぼくは月20万くらいあれば暮らせますけどね。そもそもお金に対してものすごい執着がない、っていうのも大事かも。

―:執着すると逃げていきますからね。お金だけじゃなく、恋も同じ(しみじみ)。

鳥井:あと、ぼくは「お金」と「モノ」を等価で考えたほうがいいと思っているんです。これは小さいころからそう。うちの父はですね、たとえば「自転車買ってやる」って言っても、ぼくからお金をとるんです。つまり正確に言うと、「買ってきてやる」なんですね。それ、納得いかないじゃないですか(笑)。ずっとそんな感じだったんで、お金をモノに換算する感覚が非常に強いんですよ。

―:あはは(笑)。

鳥井:たとえば、仕事をして先方に10万円請求したとしますよね。そのとき、相手が「すみません、3万円まけてください」と言ったとします。「いいですよ、じゃあ7万円にしましょう」ということにした。けれど、「7万円にしましょう」っていう気持ちと「3万円あればiPodが買える」と思う気持ち、どっちも大事なんですよ。「3万円」って、口頭でやりとりする間に、瞬時にしてなくなった金額なんですけど、それってiPodをお客さんにあげるのと何の違いもない。金額が大きければ大きいほど、そうなんですね。例えば何千万規模の仕事をするとき、「じゃ、キリがいいので2200万を2000万にしましょうか」と言いますけど、200万あれば車が買えますからね。あまり意識しませんけど。

―:確かに数字だけ、って感じになっちゃいますね。

鳥井:それから、ぼくがやっている仕事って、元手がかからない仕事ばっかりなんですね。執筆、セミナー、デザイン、プログラム、どれも元手ゼロ。最初からゼロなので、いくらでも安くできる。そういう気持ちも大事です。だから、仕事を頼まれたとき、いま自分がほしいものが買える額がもらえれば、それでいいと思ってまして。たとえば「この仕事を一日でやるモチベーション」イコール「今ほしいと思っているピアニカ4500円」でいいかな、みたいな。「今月は10万円ぐらいあれば、遊びに行けるかな」と思ったら10万円とかね。何も決まってないとき、自分が決める枠ってそんな感じですね。

―:鳥井さんって、お金が先に立つんじゃなくて、「誰かが困っている問題があるなら、解決しよう」っていうスタンスですよね。そういう姿勢って、ビジネスだけじゃなく、人間関係にも活かせるような気がしていまして。だから私、『儲かる発想』は、小学生にこそ読んでほしいと思ったんですよね。

鳥井:なるほど、いいですね。

―:そもそもご自身は、お子さんのころ、どんな感じでした? そのあたりが“アイディア筋”の養成にかかわっていると思うんですけど。

鳥井:親がじゃっかん厳しかった。たとえばですね、「おもちゃは必ずおもちゃ箱の中に入れろ」と言われていて、そこからはみ出したものは処分される。フタが閉まる状態じゃないとダメで、開いていると全部捨てられちゃう。そういうしつけのおかげかどうか、小さくて高価で、長く遊べるものをほしがる子どもになりました。電子ブロックとかレゴとか、組み合わせによっていろんな遊び方ができるもの。ああいうのでクリエイティビティというか、「作って遊ぶ」みたいな部分が培われたんではないかと、今にしてみれば思います。

―:なるほど。

鳥井:それから子どもの中には、駄々をこねる子とか、いるじゃないですか。「買って〜!」とか言って。でも、ぼくはそれを見て、「駄々をこねることに労力を費やすより、親の言うことを聞いて買ってもらうほうが早いのに」と思うような子でした。

―:達観した子どもですね、それはまた(笑)。

鳥井:あと、小学校4年、10歳のとき、母が亡くなったのは大きいですよね。そのとき、当たり前だと思っていたことが、実はそうじゃないってことに気付いたんです。つまり、「ごはんって、作らないとないんだ」みたいな。それってけっこう大事なことだったりするのかな、って思うんです。「働かないと暮らせない」っていうのと同じですから。

―:どの時代でも変わらないのかもしれないけど、ちょっと辛いことがあると自暴自棄になる若者って、いるじゃないですか。「俺たちが今、こんな状況に追い込まれているのは、××のせいだ!」とか言って。でも私たちは、「今、ここ」でしか生きていけない。だから「今、ここで、自分は何ができるんだろう」って物事を受け止める姿勢って、とても大事じゃないかと思うんです。

鳥井:今の人はそこでうまくシフトできていないのかもしれないですね。学生時代にバイトしていて、お金もそこそこある。それが就職すると、むしろバイトしてたときのほうがよかった……みたいな。本当にお金がない苦学生をやって就職して、「わあ、これでやっと毎日食べられる!」っていうほうがいいような気がしますね。ぼくは自分が就職したとき、こう考えたんです。自分が社長の立場だったら? って。自分がデザイン事務所をやってます、と。仕事はそこそこ忙しい。それで人を雇おうと思ったとき、普通に考えて新卒を採用、ってありえないですよね。そのとき、世の中の企業ってすごく偉いなと思ったんです。

―:懐がでかいです。

鳥井:ですよね。新卒のできるかどうかもわからない奴に、初任給でいきなり毎月20万払うのはすごい厚意だし、自分が逆の立場だったらムカつくだろうな、と。それで、これは働かなきゃダメだろう、自分のできる範囲のことはちゃんとやろう、と決めました。たとえば、朝早く出社してゴミを捨てるとか、みんなのコーヒーを淹れるとか、そういうのは誰でもできるじゃないですか。でも、やる人はいないんですよ。

―:めったにいないでしょうね。

鳥井:それをやったわけです。スーツを着て、毎日一番早く行く。それでみんなに挨拶して、コーヒー淹れて、その後、仕事を教えていただく。そうしたら、他にやる人がいないので、社長さんも見ていて、「おもしろいね、最近そんな人いないよ」と。で、「なんでスーツを着てるの? ここクリエイティブだし、Tシャツでいいよ」って言われて。だけど、「いや、ぼくはスーツが好きなんで」(笑)。そんな感じで、デザイナーとしても「スーツの彼ね」みたいに言われて、名前を覚えられるようになったんです。あとは仕事相手に、「デザインはバイク便で届けてくれればいいよ」と言われた場合でも、自分で行ったほうが早いと思ったら、そのまま届けに行く。そうしたら相手に会うから、その場で「お願いします」とか「ここの部分、注意してくださいね」とか伝えられるじゃないですか。こんな調子を心がけていたら、感触はよかったですね。社会人最初にして、嫌なことはなかったです。

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やりたいことが見つからなくてもいいと思うんです

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やりたいことが見つからなくてもいいと思うんです

―:鳥井さんの基本は「思いやり」だなぁ、とつくづく思いますね。まずはいろんな人の立場に立って考えてみるでしょう?

鳥井:そうだと思いますよね。みんなそうでしょうけど。でも、やっぱり会社には、ちょっと意地悪な先輩とかいるんですよ。それはやっぱり「しくみ」で対処するといいかな、と思ってて。たとえば、先輩が「明日の朝までにA案を作れ」と言ってきました。そしたら当然、作るわけですけど、これじゃ顧客はぜったい喜ばないなと思ったら、B案も作るんです。A案を作らないでB案を作ると、「おまえ、何でA案を作らねえんだ!」となって、確執が生じるんですよ。A案を作る、でもB案も作る。可能であればC案も作ると。

―:どこまでも努力しますね。

鳥井:そこは、自分の労力を最大限にかけていいところだとぼくは思うんですよ。なぜかというと、先輩と一緒に先方に行きますよね。それで先輩に言われて作ったA案を出しました、と。すると、顧客が「Aじゃないだろう」と先輩に言いますよね。そう言われた瞬間、先輩が「えっ?」となる。そのときおもむろに、カバンから自主的に作ってきたB案を「先輩から言われて作りました」と取り出す。いちおう先輩を立てるわけです。先輩も腹の中で「勝手なことするなよ」と思うかもしれないけど、「B案がいいね」と顧客に言われたら、絶対に否定しないんですよ。こういう調子でやっていたら、「じゃあおまえ、この前みたいに何案か出したら?」って感じになっていって、しまいには「じゃ、あの顧客はおまえに任せるわ」ということになる。こうなればイヤな人はいなくなるし、ぼく的には「会社のために20万以上の仕事をした」と思える。「雇っている側の立場に立って考える」みたいな気持ちは、若者に持ってほしい気がしますね。

―:そうか、自分の考え方から変えてゆくことが大切かも。

鳥井:本気でそう思えるかどうかは、なかなか難しいですけどね。「与えられるのが当たり前」と思って、会社を学校と同じように考えている人も多いじゃないですか。自分も「社会」の一員であるという認識が欠けてしまっているのかな、って。普通免許って持ってます? ぼく、免許取りたてのとき、車道を横断できなくなったんですよ。取る前は平気でわたれたんだけど、「自分みたいなやつが運転しているかもしれない」って思うと、怖くて(笑)。「車は人にはぶつからないもの」と思い込んでいるけれど、実際はそうじゃないことに気づいたんです。それに似てるかな。税金一つとっても、ふつうは払わなきゃいけない。そういう意識を学ばせてくれるような学校があるといいな、と思いますけどね。

―:確かに。

鳥井:今、小学校の土曜学級にもちょっと出たりするんですけど、キレる子がすっごく多いんですよ。あれがそのまま社会人になったら、会社に入ってもすぐ辞めるとか、そういうふうになるのかも。最近は、実際すぐ転職する人が増えていますしね。そもそも入るときの動機が適当だったりするのかな。ぼくはセミナーをやるとき、「最終目的は何ですか」と訊くんです。それでたとえば「ブーケを作りたいんです」って言う人がいました、と。でも、何が最終目的かは、これだけじゃ分かりませんよね。作りたいだけなのか、作ったものを売りたいのか、作る人を集めて会社をでかくしたいのか、ブーケを花嫁さんが持っているのをみたいのか。目的が違うじゃないですか、全部。

―:う〜ん。私も彼らと同じかも。目的をはっきりさせないまま、ダラダラやっているだけのような……。

鳥井:やりたいことが見つからなくてもいいと思うんです、ぼくは。やってみたらおもしろかったってこともあるじゃないですか。営業をやっていると、お客さんに飲みに誘われるから楽しい、とか。やっていて楽しいと思える仕事をやる、そういうモチベーションで動いてほしいです。どっちかって言うと、そのほうが早いんですよね。ぼくなんか「職業は何だ」って聞かれると、答えにくいんです。名刺を作ってくれと言われれば作りますし、商品開発をと言われれば、それをやりますから。つまり、アウトプットするのが好きなんですよね。そうなれば、何でもいいんですよ、仕事なんか。

―:何だか気がラクになりました。

鳥井:「楽しくない」と思っているのは、自分です。「病は気から」じゃないですけど、「イヤだイヤだ」と思っているからイヤなんですよ。楽しくなるような、モチベーションが湧き起こるようなしくみを作ればいいと思うんです。たとえば、すごく気難しい顧客がいたとしますよね。でも、気難しいわけだから、彼とうまく仕事ができるようになれば、自分とだけ仕事をするようになると言っても過言ではない。他からのアプローチがないでしょうから。だから、そこは落としがいがあるように思います。なんか、そういうふうに考えながら仕事してますね。僕の場合は会社員時代、「30歳前にベンツを買う」というのを目標にしていました。

―:仕事を楽しくするのも、つまらなくするのも、結局は自分なんですね。

鳥井:それから大切なのは、みんなを大事にすることです。今は新人の男の子だって、将来的にはどこかの社長になるかもしれない。以前勤めていた会社の社長は、そういう子たちを「飲みに行こうぜ」って誘って、高級店とかに行く人なんです。それで自分は飲まないで、おごるんですね。そういう新人くんたちがどんどん偉くなり、有名企業の局次長レベルにまでいっている。それで「あのときはありがとうございました」みたいな感じで、ガンガン仕事をくれるみたいです。それを聞いて、そうだよな、誰が何になるかは分からないよね、って思って。ぼくはみんなにおごることはできないけど、みんなに優しくしようと思いました。世間って本当に狭くて、いろんなことが起こりますから、人づきあいって、本当に大事です。イヤイヤつきあう必要はないですけど、相手を覚えているとか、そういうことは大事かな、って。

―:最後に一ついいですか? 今までにもっとも影響を受けた人を教えてください。

鳥井:エジソン。

―:即答(笑)。

鳥井:エジソンの発明自体ももちろんすごい。でももっとすごいのは、エジソンが作った会社が「GEグループ」としてまだ続いていることだと思うんです。つまり、あの人は発明するだけじゃなくて、売ることも考えていた、と。電球とかね、どんだけ普及してんだよ、っていう話じゃないですか。

―:この部屋(鳥井さん事務所)だけでも、いくつあるんだよ! みたいな。

鳥井:ぼくも、そういうものが作ってみたいです。スプーンや傘みたいなもの。

―:「これはトリイって人が作ったんだよ」と語り継がれるような。

鳥井:そうですね。名称そのものが「トリイ」。「ちょっとそこのトリイ取って!」みたいなね。

―:今日はどうもありがとうございました(笑)。

 

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鳥井シンゴ(とりい しんご)
発案家&グラフィックデザイナー。1973年1月21日生まれ。東京都出身。デザイン事務所、代理店のクリエイティブを経て、マーケティング&クリエイティブを実践するために独立。発案・企画を中心に、マーケット構築を考えたしくみ作りを提案するアイディアクリエイティブファーム「鳥井シンゴデザイン事務所」を設立。“一人総合企業”を実践し、企業のコンサルティングを幅広く手がける。株式会社ヒマナイヌ、株式会社エムログなどの役員も兼任。「儲かる発想セミナー」などで講義をも行う。著書に『儲かる発想』(講談Biz)。

▼鳥井シンゴBlog
http://wwws-torii.txt-nifty.com/blog/

 

 

<mukyu.jpgキャプ>
mac導入直後で覚えたくて、休みの日に仕事がなくても、会社に勉強のため出社させてもらっていた。当然無給

<tobei.jpgキャプ>
ブランディング会社に移籍し、渡米。英語はまったくできなかったが、仕事はなぜかスムーズに。相手のことを考えるのが大事なのは
世界共通


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