CINRA.NET CINRA MAGAZINE CINRA RECORDS exPoP!!!!! シンラマガジン

ARTIST toDAY アーティストの1日を追う!

 第二回:井口昇(映画監督)

(インタビュー・構成:小林宏彰 撮影:井手聡太)

何億円というケタ外れな予算で作られる映画もあれば、ほんの数万円で作られる映画もある。われわれ視聴者からすればどちらも変わらぬ1作品だし、その作品が幾らで作られたかというのは、作品の評価には関係しないものだ。しかしだからこそ、予算の少ない映画製作の現場には「発想で勝つ」ための様々な努力が詰め込まれてもいる。今回のARTIST toDAYは、そんな映画の撮影現場にお邪魔してきた。ご登場いただくのは、映画監督・AV監督・俳優などの幅広い活躍で、注目を浴びている井口昇さんだ。

舞台は5月某日、池袋シネマ・ロサにて、レイトショー終了後の観客席を使って行われた撮影現場。諸事情により1日密着取材にはならなかったものの、8月2日より公開される待望の新作『片腕マシンガンガール』用の「レクチャー映像」が生み出される貴重な現場だった。まずは井口監督の魅力的な演出を楽しんでいただきたいと思う。

「レクチャー映像」撮影風景
(撮影・編集:小林宏彰)

その後、打ち上げの席にて井口監督にインタビューをさせていただいた。井口監督の映画製作の裏側には、どんな業界にも通じる苦労と、それを乗りこえる努力や発想があった。インタビューの末尾には完成した「レクチャー映像」も掲載させていただいたので、演出の結果生まれた素晴らしい作品をぜひ楽しんでいただきたい。

井口昇監督インタビュー
井口 昇(Iguchi Noboru)
1969年生まれ。日本の映画監督、AV監督、俳優。8ミリ作品『わびしゃび』(1988年)がイメージフォーラムフェスティバルで審査員賞を受賞。平野勝之らのもとで撮影現場を経験し、一般映画、アダルトビデオ作品を監督する。映画やテレビドラマ、劇団大人計画の舞台などで、俳優としても活動している。

娯楽としてスプラッターを楽しんでもらいたい

――今日は『片腕マシンガンガール』本編の前に上映されるという「レクチャー映像」の撮影でしたが、「レクチャー映像」というのはまた、新しい試みですね。

井口 海外では、観客がスプラッター映画を見ながら盛り上がったり歓声を上げたりしますが、日本にはそういう土壌がないんですね。だから、まず最初にこの「レクチャー映像」でスプラッター映画の見方を観客に説明して、楽しむきっかけにしてあげればいいんじゃないかと思ったんです。

――なるほど。今日はまず、映画製作の裏舞台についてお伺いしたいと思っているのですが、今日撮影した映像は、編集後にどれくらいの長さになるんですか? 現場は2時間くらいでしたよね。

井口 全部で2分ぐらいになります。映像っていうのは、ある程度素材を長めに撮っちゃうんですよね。それでよい瞬間だけを取って、短くします。

――そんなに凝縮されているんですね。今日来てまずビックリしたのが照明だったんですが、スクリーンがチカチカする弱い光を再現した、おもしろい照明でした。いつもこうした照明をお使いになるのですか?

井口 いえ、普段はああいった明かりの使い方はしないです(笑)。今日は予算もないので、皆さんボランティアで来てくださっていまして、(美術担当の)西村さんの事務所にある照明を持ってきていただいたんです。

――役者さんたちが、メガネをかけたりだとか、胸ぐらをつかみあったりする演技は、ある程度事前に決めていらっしゃったのですか?

井口 そうですね。今日はラフな状況なので、事前にだいたいは決めておいて、あとは現場の瞬発力で具合のよいものを取り入れました。いつもはこうではないですが、今日は何も考えずに現場に来て、即興でやった感じですね。

――監督のふんどし姿が印象的でした(笑)。

井口 あのふんどし隊っていうのは、ここ数年西村さんとの間で流行っていまして、イベントの時になぜかふんどし姿で出ることが多くなっているんです。今回も西村さんが持ってきてくださったんで、はいてみました(笑)。ふんどしは卒業しないですよ。

西村 最近「監督なのに」とか言って、ちょっと嫌がってますよね。

井口 嫌がってないよ(笑)。

期待通りのものと意外性とを、バランスよくミックスさせたい

――それでは、『片腕マシンガンガール』本編に関してお聞きしていきたいと思います。今回はアメリカの制作会社から来たお話だったということで、アメリカから逆輸入という形での公開になりますよね。スシやテンプラを登場させるという発想が生まれたのも、アメリカでの公開を考えた結果なのでしょうか?

井口 そうですね。日本人でないと撮れないものを、というオーダーがありましたから。外国の方が見る日本のイメージというのは、いまだにゲイシャやスシ、ニンジャというのが、根強くあるみたいなんで、そのオーダーに答えながらも、わかりやすさと新鮮さを両方ミックスさせた作品にしたいなと。それでニンジャという期待通りのものと、マシンガンをつけた女子高生という意外なものを、バランスよくミックスさせた面白さを出したいという思いがありました。外人から見ると、セーラー服って新鮮らしいんですよ。もともと水兵の格好なのに、女子高生が着ているのが日本独特で、人気があるらしいです。

――確かに新鮮な組み合わせですよね。また、今作の公開にあたって、前売りチケットのオマケでスクラッチ絵葉書がついてきたり、江口寿史さん描き下ろしイラストを使ったチラシを作ったりと、さまざまなキャンペーンを考えていらっしゃいますよね。

井口 もちろんスプラッターのファンの方にも見せたいんですけど、たとえば女性やカップルなど、こういった映画を見ない人たちにも仕掛けていこうと考えた時、普通ではない、好奇心をそそる宣伝の仕方じゃないとだめだと思いました。もちろん宣伝の予算があるわけでもないので、数や大きさよりも、工夫で見せていこうと。これは映画製作にも言えることなんですけど、たとえばお金や時間がないという、普通ならば悪い条件に当たることを言い訳にせず、逆手にとって強みにしていく工夫をするべきだと思うんですよね。今回も大手の映画会社ではできない宣伝の切り口で、逆に目立たせる戦略です。スクラッチは、これを使って遊べる、という点が売り込むポイントですね。

――そういった戦略は、今日撮影したレクチャー映像を流すことにも言えますね。

井口 そうですね。スターが出ているわけではない、といっては失礼ですけど、本来ならマイナスになることを逆手にとって、発想を転換した作り方、宣伝、上映にしていきたいな、という気持ちがあります。

――日本の方も含めて、誰が見ても面白い作品になっていると思いました。

井口 ある意味でラッキーだったんですよね。日本ではなかなか通りにくい企画なので。やっぱり今までにない発想で映画を作っていきたいと思っていますし、今後もそう思ってやっていきたいです。大手で作っているわけではないので、発想を柔軟にすることで楽しく作れるんですよ。そういう部分でやりがいを感じたいんですよね。

→井口監督のこれまでの歩みとは?
改ページ 

____________________________________________________________________________________________________________________________

映画の制作とは、時間とお金との格闘

――『片腕マシンガンガール』の、脚本の準備期間はどれぐらいだったのですか?

井口 去年の1月に企画を言われて、脚本を書き始めたのが3月くらいです。で、4月の頭くらいに出来上がって、6月には撮影です。全然時間がなくて。撮影は12日間ですね。すごく短いんですよ。普通の映画の半分もないくらいで、朝から夜中までみっちりです。

――2週間もかからずに撮影されているんですか! 撮影のスケジュールはあらかじめ決めているものなのですか?

井口 助監督さんがスケジュールを決めて、それに合わせて撮影していきます。ただ、映画の撮影は天候に左右されたり、取りこぼしがあったりするので、状況に合わせてスケジュールは変えます。だから、どんどんずれていっちゃうものなんですよ。でも日数は決まっているので、与えられた日数の中で、どうやって撮り切るかが最大のテーマになります。映画の制作は時間とお金との格闘なんで、そこに労力というか、頭を使いますね。今日の撮影でも、2時間で終えるにはどれくらいの配分でやればいいか、撮りながら考えているんですよ。

――撮影を拝見していて、とてもスムーズな感じがしました。

井口 自分でカメラをやっていますからね。現場が大きくなって、カメラマンさんがいたり照明さんがいたりして、丁寧に撮ろうとしたらどんどん時間がかかりますので、どうバランスを取っていくかが難しいんです。大作の場合はこうするだとか、状況に合わせて作り方は変えますね。なんでも物を作る場合はそうだと思うんですけど。

――マシンガンになっている腕や、ドリルブラなんかは西村さんが制作されたと思うんですが、どれくらいの期間で作られたものなんですか?

西村 全部で一ヶ月くらいなんですよ。指が吹っ飛ぶ場面での指の一本一本とか、棺おけを開くと顔が現れる仕掛けとか、細かいのを入れると50個くらいあるんです。マシンガンは全部で3個用意していて、芝居用と、投げたりできる用と、アップ(で撮る)用ですね。

井口 漠然としたイメージなんですけど、簡単なラフスケッチを描いたイラストを渡して作ってもらいました。

熱意とともに、客観視する冷静さがないと、作品は成立しない

――では、ちょっと話の角度を変えて、井口監督自身のフィルモグラフィーについてもお聞きしたいのですが、19歳の時に『わびしゃび』という作品(DVD『愛の井口昇劇場』所収)が、イメージフォーラムの映画祭で受賞され、その後AV監督の平野勝之さんの助監督などをされていましたね。もともと、AV業界で働くことに興味があったのですか?

井口 AVに興味がないわけではなかったんですけど、まさか自分で監督をするとは思わなかったんですよ。たまたま僕の知り合いがAVの仕事をしていて、バイトみたいな感覚で手伝っていたら、どんどん本格的にやることになっていったという。芝居や映画監督もそうなんですけど、なんとなく成り行きでなったところはありますね。もともと映画はすごく好きだったんですけど、まさか自分がプロのAV監督であったり映画監督になれるっていうのは、イメージしてなかったです。撮れたらいいな、とは思ってましたけど、本当に実現したことには不思議なめぐり合わせを感じますね。

――実際に監督をおやりになっていて、大変だと感じることってどんなことでしょうか?

井口 そうですね、多いと50人ぐらいスタッフさんがいたりする中で、うまくコミュニケーションを取っていくことが大変ですね。周りに気づかいをしながら自分のイメージを伝えて、現場を引っ張っていくことがすごく難しくて、いまだに毎回反省つづきなんです。ただ、現場をうまく回していくことは大事なんですが、出来上がった作品がすべてでもあるので、折り合いもつけつつ芸術的な完成度も落とせないというバランス感覚が大事なんです。

――それはかなり困難が伴うこともあるでしょうね。

井口 現場をやっている時は、芸術的なことと真逆なことをしなきゃいけない時もあります。人付き合いもそうだし、役者さんにも気をつかわなきゃいけないし。お客さんは出来上がったものしか見ませんので、たとえば100億かけた映画も、50万で作った映画も同じ目線で見ますよね。だから、予算がないという言い訳がきかない点も大変です。お客さんがお金払って見てくださるものなので、しっかりしたものを作らなければならない、という思いがすごく強くあります。

――助監督時代の経験は生かされているのですか?

井口 それもありますし、自分でやっていて気づくこともあります。ものは一人じゃ作れないところが難しいところです。やっぱりバランス感覚が大事で、現場がうまくいくだけでもだめだし、作品が面白いって言われても、スタッフさんとの関係が悪くなってもだめだと思うんですよ。関係がうまくいってない時って、作品にも出ちゃいますね。

――撮影では、気をつけなくてはならない、さまざまな要素があるんですね。

井口 そうですね。作る人には思い入れがあるので、どうしても冷静に見られなくなっちゃうし、編集していても切れなくなっちゃうんですが、お客さんは冷静ですから。熱意とともに、客観視する冷静さがないと、どこかで破綻を起こします。現場では考える時間があまりないので、一回芝居やってもらって、あ、この芝居だったら成立するな、という判断をするのには直感が大事なんですが、あとで編集している時、「あー失敗した」っていうこともありますね。撮影している時って、鉄をあぶって打っている状態なのに対して、編集は打った鉄を水に漬けて冷まさなきゃいけない作業なんですよ。撮影は勢いでやっちゃうものですが、編集は一歩引いて俯瞰して眺める必要があります。

――撮影の際も、編集のことを意識されながら撮るのですか?

井口 もちろん意識しますが、時間をおいて見ると印象が変わっていたりするんですよ。この場面は絶対いると思ってたのにいらないや、とか、逆に失敗したと思ってたのに意外といいじゃんとか。どんなに映画を撮りなれている大巨匠が撮ったものでも、いらないシーンが出てくるんですよ。つないで全体を見てみないとわからないんです。人が50人もいても、その場面がいるかいらないか分からないというのが、いつも映画って不思議だな〜と思うところで。

映画は、作っていて楽しい瞬間の方が少ない

――井口監督は、役者としてもご活躍されていますよね? 以前は「大人計画」の役者もやられていましたし、『犬猫』『バードウォッチング』といった作品や、最近では人気深夜ドラマ「週刊真木よう子」の第4話「中野の友人」(監督:山下敦弘)にも出演されていました。

井口 そんなに多くは出てないですよ(笑)。でも出る側は、好きか嫌いかで言えば、けっこう苦手なんですよ。

――役者さんを演出する際、一番感情が昂ぶった状態に持っていく努力をするのですか?

井口 役者さんって、一番熱い時が一番いいとは限らないんですよ。演じていて楽しいな、と感じている時が、見ていてイヤミに思えてしまうこともあるんです。

――それでは最後に、さきほど監督をしていて苦労する点をあげていただきましたが、楽しいことを教えていただけますか?

井口 現場で、西村さんや、CG担当の方だったり、いろいろな方々といいキャッチボールができた時ですかね。それから、単純にお客さんが楽しんでくれた時ですね。映画を作っていて楽しい瞬間のほうが少ないですよ。やっぱり苦労はするものだから、何かしら楽しくありたいな、と思います。

 

スプラッター映画(splatter movie)とは?
殺害シーンで大げさな血しぶきが上がるなどの誇張された表現や、惨殺死体など生々しく残酷な描写が特徴的な映画を指す。1970年代に基盤が作られ、1980年代に大ブームとなった。代表的な作品として、『悪魔のいけにえ』『ゾンビ』『死霊のはらわた』『13日の金曜日』『ハンニバル』などがある。

 

「レクチャー映像」完成版映像

 

『片腕マシンガンガール』
8月2日(土)より、池袋シネマ・ロサ、シアターN渋谷にて、2館同時レイトショー
ゆうばりファンタスティック国際映画祭2008 ブリュッセルファンタスティック国際映画祭2008 正式招待作品
2007 製作:FEVER DREAMS 提供:TOKYO SHOCK 配給:SPOTTED PRODUCTIONS
http://www.cinemarosa.net/

自動でウィンドウが開かない方は
コチラをクリック!