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小説が音楽に勝った瞬間
幻冬舎 石原正康インタビュー
(取材・文:関田庸介 杉浦太一/撮影:井手聡太)

こう言うのもどうかと思うけど、小説はあまり時間がないときに読まない方がいい。読み出したら最後、ご飯を食べるのも、眠るのも、下手をしたら仕事するのも忘れて、その世界から抜け出せなくなる。「小説と私、どっちが大事なの?」とか「おい、俺の話し聞いてんのかよ?」とか、だいたいの確率で面倒なことになる。でも、うっかりまた・・・。

山田詠美『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』、天童荒太『永遠の仔』、五木寛之『大河の一滴』、村上龍『13歳のハローワーク』『半島を出よ』。これらの話題作、聞いたことのあるタイトルもあるだろう。これらの作品は全て、ある一人の編集者によって手がけられた本なのだ。幻冬舎、石原正康。作家と読者を結びつけるこの偉大なる仕掛人は、ぼくらなんかよりもっと、小説のおかげで面倒なことになっているんじゃないかと思い、話しを聞かせていただいた。

 

読み終わった時に、「あ、俺音楽聞いてたんだっけ?」って。

 

―やっぱり小さい頃からたくさん小説を読んでいらしたんですか?

いえ、中学校まではそれほど文学が好きだったわけじゃないんですよ。友達と授業中に文庫をまわし読みする程度でしたね。読み出したのは高校時代からです。その頃好きになった年上の女性がいて、その人に勧められて文学を読むようになったんですね(笑)。J.D.サリンジャーとか村上龍とか、色々と本をくれて。今から思うとぼくを洗脳しようとしていたのかもしれないな。実際、洗脳されたし(笑)。

その頃は、バンドでギターを弾いていたりしたので、そっちの方がリアルだなと思っていたんです。演奏していたのはローリング・ストーンズとかエアロスミスとか、いわゆるロック系で、地元の地区大会でベストギタリスト賞をもらったりもしてましたね(笑)。

―それはかなりの腕前ですね(笑)。ロックと小説とで、何か共通点があったんでしょうか?

(村上)龍さんの小説なんてすごくロックじゃないですか。高2くらいの時に『コインロッカー・ベイビーズ』を読んで「こういう世界があるんだ! かっこいい!」って思ったんです。自分たちの世代が共感できるものがあったんですよね。そういう(70年代の終わりに)村上龍さんや村上春樹さんの作品などが出てきたことで、それまでの現代文学の世界を「さら地」にしてくれたように思うんです。そこからよしもとばななさんとか山田詠美さん、近いところでは金原ひとみさんといった作家の系譜が出きてきたわけですよね。

―学生の頃は石原さんご自身も小説を書いていらしたんですよね?

高校生なんでほんとに作文みたいなもんですよ(笑)。友達と海に行ったとか、当時好きだった女の子のこととか、そういう身のまわりのことを書いていましたね。大学に入ってからは時間ができたので、長めの作品を文学賞にも応募したこともあります。というのも、さっき話した好きだった女性にフラれたんですよ。それで悔しくて、自分が作家になって彼女を見返してやろうと思って、本格的に書き出したんですよね、ただそれだけです(笑)。7つ年上の人だったんだけれど、今頃どうしてるんだろうなぁ。

―なんだかそれ自体、小説みたいなお話しですね(笑)。応募した作品は、どうだったんですか?

『野性時代』という雑誌の賞に応募したんですが、審査員だった作家の宮本輝さんからは「この程度の砂金(さきん)で小説家になれるんだったら、日本中が作家ばっかりになる」なんて選評で書かれました。キツいでしょ? その後宮本さんの担当編集者になったんですけどね(笑)。同じく審査員の中上健次さんからも「これはオナニズムだ」と選評で書かれました。結局人のことなんて考えてなくて、独りよがりに自分の書きたいものを書いていたっていうことなんですけどね。

―なるほど。そうして今、小説を世に送り出すお仕事をしていらっしゃるわけですが、音楽や映画に比べて、小説の魅力ってどんなところなんでしょうか?

昔、山田詠美さんの『ベッドタイムアイズ』という作品を、ウォークマンでロックを聴きながら読んでいたんですよ。『ベッドタイムアイズ』はわりと短い話なんですけど、読み終わった時に音楽のことを全く忘れていたことに気がついて、「あ、俺音楽聞いてたんだっけ?」って思ったんです。すごく単純に言ってしまえば、それって小説が音楽に勝った瞬間だな、と思うんですよ。音楽は放っておいても流れてくるし、映画も観たくなくても進むじゃないですか。でも、小説は自分から読んでいくので、ハマった時の勢いっていうのは、ほんとにすごいんですよね。

―たしかに、あのドライブ感というか、引き込まれ方は他では味わえないですよね。

作家が描きたい世界っていうのを、映画だったらCGにしたりするわけですけど、お金はもちろん、人もたくさん必要なわけですよね。一方小説は、自分の世界が言葉でつくれるんです。音も、映像も、心情も、全部自分の言葉でつくっていくという意味では総合芸術だと思うんですが、その世界は作家1人がつくっているわけです。だから、すごく濃密なんでしょうね。

→村上龍さんと新宿を歩いていると、
 村上龍が描く新宿の街のように見えてくるんです。

 

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村上龍さんと新宿を歩いていると、
村上龍が描く新宿の街のように見えてくるんです。

 

―石原さんは作家さんの原稿を読んだ時にいいところをよく褒めるといいますが、どういうところが「いい!」と感じますか?

苦労して書いているな、と感じるところですね。作家の気分が乗って、サラっと書いているところって、読んでいる方もスピードに乗って読み飛ばしちゃうようなところなんですよ。そうじゃなくて、苦労して書いているなと思うところは、立ち止まって考えさせられたり、うならされたりするんですよね。

―実際に、作家さんとのやりとりで苦労されることはありますか?

苦労はね、毎回してますよ(笑)。だけど、作家と編集者の間には作品というものがあるから、作品を完成させなければという思いがある以上、決定的に関係がダメになるということはないですからね。作家と喧嘩をするということもありますけど、喧嘩するというのはそれだけ濃密なコミュニケーションを取っているという状態ですからね。

―色んな作家さんとそうやって深くおつき合いされていると思うのですが、作家というのはどういう人たちなんでしょうか?

やっぱり、自分の世界を持っている人たちですよね。自分が行ってみたくないような場所のことは、わざわざ小説で書いたりしないですよね。だから、自分の憧れというか、理想の世界を作品の中で実現させたいと常に思っているんだと思いますよ。そういう理想や飢えが強い人たちだと思いますね。

―実際そういうことを感じることは、作家さんと一緒にいてあるんですか?

ありますね。例えば、村上龍さんと新宿を歩いていると、周りが村上龍の描く新宿の街のように見えてくるんですよ。近未来的で爛れた雰囲気の街に見えてくる。一方で山田詠美さんと歩くと、同じ新宿でもまた違って見えてくるんです。恋愛の魅力にあふれるというか、目の前を並んで歩いている男女のことが気になっちゃったりする。それだけ、作家によって持っている世界というのが千差万別で、風景まで違って見えちゃうのはすごいな、と思います。

―たしかにそれはすごいですね。それだけ作家さんが強い世界観を持っているということなんでしょうね。ところで石原さんは、どんな小説がお好きなんですか?

例えになっちゃって申し訳ないんですけど、海の中でカツオとかマグロのような魚が大量に泳いでいるとする。そういう魚がいる一方で、海底の砂の中にはすごく微細な生物が住んでいるわけですよね。そういう生物はすぐに食べられてしまうかもしれない、厳しい生活環境で生きている。そういう弱い生き物も、実は生きていく術やバイタリティを持っているんですよね。そういうことを気づかせてくれるような作品が好きです。村上龍さんの小説にもそういうところがあると思います。例えば『半島を出よ』という作品では、九州でどうしようもない不良少年たちが活躍するわけですが、普段虐げられている者たちが持つ力を描かれているように思います。そういう弱い存在が小説の中では逆転して、強いものに勝っていくという話が好きですね。

 

―最後に、現在進行形のお話しになりますが、「蒼き賞」のことをお聞かせ下さい。

ウチの社員から「SCHOOL OF LOCK!」っていう10代の若い子たちが聞いている素晴らしいラジオ番組があるっていうことを教えてくれたんです。それで、番組を聞いてみると、リスナーをすごく大事にしている番組だな、っていうのが分かりました。公式サイトの掲示板でも、人生を真面目に考えていたり、世の中を自分の目で見てジャッジしているような若者が多くいることがわかったんです。それで、この人たちに小説を書いてもらいたいと思って、10代限定の文学賞「蒼き賞」の募集をはじめました。

―ネット上で候補作を連載していくっていうのは画期的なやり方ですよね。

せいぜい応募は500くらいだろうと思っていたら、3000くらい集まったんですよ。それを6人にしぼって、それぞれにネット上で10話完結の連載をやってもらっています。ともかく、レベルがものすごく高いんですよ(笑)。

―たしかに、サイトで読ませてもらったら、どれもすごく良く書けていますよね。

もちろん(たくさんの小説を)読んできているっていうのもあるだろうけど、書き慣れているんだと思うんです。ぼくらの10代の頃なんて、年賀状くらいしか書いてなかったわけですけど、あの子たちはネット上も含めて、文字を書くことに慣れているんですよね。相手にどう届くかっていうところまで、もう肌で身に付いているわけです。

―6人の中の1人の作品が書籍化するわけですよね。

優秀作を書籍化します。今連載5回目なんで、半分ですね。はじめはもっとワケのわからない展開になっていくんじゃないかと思っていたんですけど、ちゃんとストーリーになっているんですよ。しかも、やっぱり10代の頃にしか書けない文章っていうのがあるんですよね。すごく張りがあるというか、キラっと光るものがあったりするんですよ。そういうのは、今しか書けないものだと思います。

―結末が楽しみですね。これからもたくさんの素敵な作品を送り出されることを楽しみにしています。

 

石原正康(いしはら まさやす)
1962年、新潟市生まれ。法政大学卒業後、アルバイトで入った角川書店を経て、93年、見城徹らと幻冬舎を設立。現在、幻冬舎の専務取締役・編集本部および出版局の最高責任者。山田詠美『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』や村上龍『13歳のハローワーク』など、数多くの話題作やベストセラーを手がける。07年にはNHKの「プロフェショナル 仕事の流儀」に出演し、現在TOKYO FMの人気ラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」と組んで10代のための文学賞「蒼き賞」の開催など、常に斬新な発想で文学が生まれる瞬間に立ち会っている。
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