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第3回:今村圭佑 (Mrs.fictions/15 minutes made)

 

映画館に行くよりも、ライブハウスに行くよりも、「芝居を観に劇場に行く」のは稀なことだと思う。実は自分自身、これまでほとんど芝居を観に行かなかったのである。そう、『15 minutes made』という演劇イベントに出会うまでは。

『15 minutes made』は、劇団Mrs.fictionsが2007年に立ち上げ、この1年間で4回開催された定期的なイベント。1つの公演で、7つの劇団が、15分の芝居をする。たったそれだけのことなのに、何とも出会いの多いイベントなのだ。普段は2時間近い長編しか作らない劇団たちが、たった15分に己の魅力を凝縮する。その密度と熱さが尋常じゃない。でもって、そもそも演劇というジャンルがメチャクチャ面白いことに気がつく。笑いも泣きも心得ている作家と役者たち、彼らが次から次へと登場してくる『15 minutes made』。その舞台裏に潜入した。

 

今村圭佑 (Imamura Keisuke)
1983年生まれ。Mrs.fictionsの主宰・劇作家。日本大学芸術学部演劇学科卒業。
2001年から2007年まで劇団バームクーヘンの中心メンバーとして活動。
2007年3月、舞台芸術の想像と発展を目的にMrs.fictionsを旗揚げ。同時期に人と話す事の素晴らしさに気付き、以降積極的に他人とコミュニケーションを取るようになる。
http://www.mrsfictions.com/

困りました、パソコンの電源ケーブルを
家に忘れてきちゃいました…

 

夏も終わりに近づいた8月31日、『15 minutes made』(以下、15mm)の主催者であり、Mrs.fictionsの今村圭佑に現地集合を命じられた取材班は、社会人らしく指定された時間の5分前に到着。開場まで2時間を切った場内は、すでに出演者やスタッフが大忙しで動き回っていた。だが、肝心の今村が来ない。10分待ち、20分待ち、30分待ってやっと来た。平然と言う、「すいません、集合時間を間違って伝えてました」。見かけに反して、なかなか図太い男である。

しかし、主催者がこう易々と時間を間違えられるのには理由がある。演劇の公演は、当日の現場進行を担当するスタッフがいて、当日の段取りやお客さんへの対応などをやってくれる。

「演劇って、お客さんに座ってもらって、飲み食い無しで2時間ぶっ続けで観てもらうわけじゃないですか。芝居が止まっちゃうと終わりだし、如何に暗転を早くするかとか、細かい部分をどれだけ短縮していくかを考えないといけないんです。どれだけお客さんに気持ちよく観てもらえるか、その為のスタッフワークはかなり綿密にやっています。だからタイムスケジュールを組んで、本番前から本番中まで、裏方の細かな動きまで決まっています。誰が何を持って舞台にいくとか、楽屋からステージ裏にどのタイミングで誰が出入りするかまで。こうすれば暗転何秒削れるじゃん、っていう世界ですね」

なんと、『15 minutes made vol.4』は、8回の公演で、タイムテーブルは1分もずれなかったというから驚きだ。この日も実に安定感のある進行で頼もしい。ただ、今村一人を除いては…。「困りました、パソコンの電源ケーブルを家に忘れてきちゃいました…」。あまりの初歩的なミスにかける言葉も見つからないが、結局、お母さんが持ってきてくれた。
 

まず自分の顔をさらして、何でこういうイベントをやっているのかしっかり伝えたいと思っているんです

 

そんな今村も、スーツに着替え、役者さんに髪をセットしてもらうとようやくスイッチが入る。女性は化粧をするとやる気が出るというが、今村にとってはスーツがその役を担う。社会人らしいとも言えるが、小劇場でスーツというのは少し意外だった。

「ぼくは全然オシャレじゃないので、スーツは制服みたいなものなんです。本当はコスプレとかにしたいんですけど、そんなのに予算でないですから(笑)。あんまりふざけてるとメンバーにも怒られちゃうし、どんなカッコをしていいかわからない結果、スーツなんです(笑)」

ようは消去法でスーツ着用に至ったという話しではあるが、身なりを整えるにはそれなりの理由がある。今村は劇作家であり役者ではないのだが、15mmでは毎回必ずステージに立ち、主催者としてお客さんに「15 minutes made」の意図を説明するという大役があるのだ。

「こういう前説は、普通の公演ではあまり観られない光景だと思います。だけど僕たちは、イベントのコンセプトでもある『出会い』というものを大切にしたいと思っているので、まず自分の顔をさらして、何でこういうイベントをやっているのかしっかり伝えたいと思っているんです」

これまで30回近くそのステージをこなしているとはいえ、舞台袖での表情は真剣そのもの。息をのんで舞台に飛び出していった今村は、冗談ばかり言っていた先程までとは打って変わり、穏やかながらも熱意をもって語っていた。

※写真※

舞台上で前説を終えた今村が舞台袖に戻ってくるのと入れ違いで、横浜未来演劇人シアターがステージへ。まさにその場で一連の動きを見守っていたのだが、真っ暗で何も見えない。ステージにうっすらと照明が当たったとき、やっと今村が横に立っているのに気づいたほどだ。
本番が始まると舞台袖の出入りは規制されるようで、しばし袖で待機することになった。この場こそ、今回の取材で最も強烈な体験だったのだ。呼吸音さえうとまれるような、ピンと張りつめた緊張感。そして、息をひそめていた役者たちが、サッとステージに飛び出すなり躍動し、大きな声でセリフを放つ。ステージの裏と表の境目を飛び越えていく役者たちの瞬間的シフトチェンジ、その強烈なダイナミクスには美しさすら感じた。

 

※写真※

 

暗転を待って舞台袖から引き上げた今村は、通路にあるテレビモニターで公演風景をチェックする。公演の合間を縫って、彼らが活動の場としている小劇場界や、Mrs.fictions、そして15mmについて話しを訊いてみた。

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僕らがお客さんに提供できるものって、
生の力というか、役者の上手さだったり、
ナマだからこそ伝えられる生への実感だと思います

 

 

―15mmを立ち上げる際にもお話を伺いましたが、もう一度イベントのコンセプトを教えてください。

300人に満たないような小さな劇場と、そこを拠点に活動する演劇集団(劇団)を総称して「小劇場(界)」というんですが、15mmはその小劇場界の活性化をテーマに掲げています。現状ではそれぞれの劇団が単独で公演を行うことがほとんどなんですが、それだと多くのお客さんにとって、劇団や劇場が点々と存在しているだけになってしまうと思うんです。そうした状況だと「小劇場界」というシーン自体は活性化しないと思いますから、小劇場界を一つの面として社会に押し出していくことで、小劇場演劇を広めていこうと思っています。小劇場界の窓口になれるようなイベントにしていきたいです。

―実際に1年間やってみた感想はいかがですか?

お客さんもしっかり入りましたし、出て頂いた劇団にも「15mmで観て本公演に来ました」というお客さんが必ずいらっしゃるようで、地味ですけど成果は実感しています。劇団から出たいと言って頂けることも増えていて。

―やっぱりみんな、そういう場が欲しかったんですね。

そうなんですよ。小劇場とライブハウスって、出演している側の状況は似ていると思うんですけど、ライブハウスは基本的に複数組が出演していて、ワンマンライブはなかなかやらないじゃないですか。ところが僕らは、ワンマンをやる機会しかなかったんです。ライブハウスみたいに、対バン形式で、どんどんお客さんを取り合っていくことが必要だと思いますね。

―小劇場界では、演劇だけで生計を立てている人もいるんですか?

純粋な作品作りだけで食べてる方はほとんどいないと思います。知名度のある人は、テレビにでたり、雑誌で連載をしたり、ワークショップをやったり、授業をしたり、演劇以外のところから収入を得ていたりすると思います。あと最近は、劇作家による小説の出版が盛況なんですよ。本谷有希子さん、前田司郎さん、岡田利規さんなど、出版業界でも話題になっています。演劇をやってる人って、2時間の中で物語を展開するから話しがうまくて面白いらしいですね。

―ワンマン公演をやっても、ほとんど収益はでないんですか?

先ほど名前を挙げた方々はちょっとわからないのですが、ぼくら程の規模だと本公演をやっても黒字なんてほとんどでません。次の公演の稽古場代が入るかどうかで、芝居と生活は全く別のところで稼がなければいけないんです。

―公演を打つのも大変なんですね。

そうですね。いざ公演を打つとなると、先に予算を組んでそれをみんなから集めるんです。だけど、予算が少ないからってチケット代を上げるのは間違いなんですよね。どれだけお金がかかったか、ということと、その芝居がどれだけ面白いか、というのは決して比例しないじゃないですか。結局僕らがお客さんに提供できるものって、生の力というか、役者の上手さだったり、言ってしまうと、ナマで行うからこそ伝えられる生の実感だと思います。そういう部分に対する予算って、計算されていないわけですよ。どれだけ時間をかけて脚本書いて、役者がしっかり台本を読んだなんて、数字にはできないですから。

 

演劇ってお客さんがいて初めて成立するものだと思うんです

―話しを聞いていると現状は大変そうですね。今村さんはどうして芝居をやろうと思ったんですか?

高校生の頃の話しですけど、ぼくはラジオっこで、中でも伊集院光さんと宮村優子さんっていう声優のラジオをよく聴いていたんですね。その宮村さんがもともと芝居をやっていた人で、番組中に野田英樹(劇作家)さんの魅力を語るんですよ。それで野田さんの公演ビデオを観て、その戯曲を読んでみたら、異常に面白くて。それがきっかけですね。大学では芝居をやろうと思って、日芸の演劇学科に行きました。
大学で初めて芝居を作った時は、本当に高揚しましたね。作る過程もすごく楽しいんだけど、お客さんに拍手してもらえるっていうのが本当に嬉しかったんです。他では味わえない感覚でしたね。

ー大学内で劇団バームクーヘンを旗揚げして、昨年解散しましたよね。そして一気に、Mrs.fictionsの旗揚げと15mmの企画に動き出したんですよね。

前の劇団は、「作る」ことばかり考えていたんですけど、作り手の楽しみ方は卒業しなきゃいけなんじゃないかと思ったんです。もちろん忘れちゃいけないとは思うんですけど、もっとお客さんに何を感じてもらいたいか、そのためにどうすればいいのかを考えたかった。Mrs.fictionsや15mmを始めたのには、そういう経緯があったんですよ。

―前はお客さんを疎かにしていたと。

そうだったんだと思います。演劇ってお客さんがいて初めて成立するものなんです。舞台があって、客席で観ている人がいて、互いのリアクションで場が生まれていく。それ自体が「舞台」だと思うので、それを僕たちは「関係性の芸術」と呼んでいます。
ただ、そこで何かお客さんに伝えたいことがあるわけではないんですよ。こういう世界の見方があるよ、こういう感覚が素敵だと思うから、お客さんにもそう思って欲しいな、とは思いますけどね。

 

―今村さんが芝居を続けている理由って、なんでしょう?

変ないい方ですけど、僕は芝居をやってなかったら何にもできないだろうと思います(笑)。バイトしてても全く輝けないですし、芝居は自分が社会と関われる唯一のものかもしれないです(笑)。
芝居は一人じゃできないもので、みんなで作り上げるもので。前向きな言い方をしてしまえば、自分に何かが足りなくてもいいわけです。逆に、自分に何か足りない部分があるからこそ、人と関わって何かを作り上げていくことができる。

―今日はまさに、その一端を覗かせてもらった気がします。裏方の仕事が予想以上にシビアでびっくりしました。

完成度の高い作品って、実は裏方のスタッフワークがものすごい威力を発揮しているんです。暗転がしっかりしていたり、照明や音のレベルの大小で雰囲気を演出したり、そうした部分が観客の気持良さを生み出しているんですよね。

―進行から演出、イベント企画など、どれも綿密に練り込まれていますね。

僕たちはセンスとか思いつきで勝負できる人間ではないので、空いてる時間にどれだけ考えられるかが勝負だと思っているんです。だから考える事だけは、しっかりやりたいと思って。でも、そうするとちょっと固すぎるとか言われちゃうんですけども(苦笑)。

―とはいえ、15mmの評判も上がってきているようですし、今後が楽しみですね。

はい。でも、自分たちの意識が変わったからって、自分の劇団がいきなり面白いものを作れるわけじゃないんだなって、当たり前のことに気がつきました。本当のところは、15mmをやりながらMrs.fictionsを面白くしていきたいと思っていたんですけど、やってみると、イベントの運営で忙殺されちゃったんですよね。作品書いてないで、夜中ずっとメールしてても終わらないやって(笑)。だからすごく悔しくて。イベントやりながら劇団としても成長できたらカッコ良かったんですけど、僕らそんなに出来る子じゃなかったです。だから、これから半年時間を作って、しっかり作品を作りたいと思っていますね。結局僕らがつまらないと、イベント自体に説得力がでないなって。

 

公演が終わるとまた、アフタートークに出演すべく背筋を正した今村。『15 minutes made vol.4』を終えたのち、2009年3月に『15 minutes made vol.5』を開催するまでの間は芝居作りに専念するそうだ。ページの冒頭では、今回上演されたMrs.fictionsの『ねじ式(未来編)』の動画を掲載しているので、是非ご覧頂きたい。そして来年の3月、彼らがどのように進化したのか、彼らのいう「関係性の芸術」とはいかなるものか、あなた自身の目で確かめて欲しい。

 

 

 

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